4/22/2022

藤田嗣治のメゾン-アトリエ/ ヴィリエ・ル・バクル

Maison-Atelier Foujita à Villiers-le-Bâcle

まだまだ寒かった4月初めに、パリの南30キロほどの小さな村にある、画家、藤田嗣治が晩年に住んだアトリエ兼住居を訪ねました。
村の名前は Villier-le Bâcle ヴィリエ・ル・バクル、引っ越し魔だったフジタはここで1961年から68年にスイスで亡くなるまで過ごしました。パリにもアパートを持っていたのに、70才を越していた彼は、色々煩わしい都会を離れ、仕事に没頭しようとしたのだそうです。遺作となったシャンパーニュ地方の都市ランスのチャペル、ノートルダムドラペのフレスコ画(1963-1968年)の習作が残っている事で知られています。

最寄りのジフシュルイヴェット駅から片道4kmほどだったので、早春の田舎をハイキングを兼ねて歩き、丘の上のヴィリエ・ル・バクル村に到着。道路沿いにあるフジタの家は、上写真のようにこちらからは2階建てに見えますが、反対の庭側は道路から一段下がった丘の斜面なので3階建てです。ブログトップの写真は庭側から撮ったもの。1階は庭に面したテラスのあるキッチンとダイニング、2階は寝室と居間、3階がアトリエ。フランスの田舎によくあるごく普通の家で、写真では大きそうに見えるかもしれませんが、こちらの平均よりかなり小さめです。


案内して下さった人のお話では、この家は元々は2つのとても小さな家に分かれていたのを、リフォームして繋げたのだそうです。下のフジタの絵は多分リフォーム前で、確かに左右対称で中央に2つの入り口がありますね。


フジタよりずっと若かった君代夫人は、彼の死後も一切家の内装を変えずに20年以上住み続けました。1991年に日本に帰る事に決め、エッソンヌ県に家と中にある物を寄贈し、メゾン-アトリエとして保存公開に尽力したそうです。作品や蔵書をしかるべき所に寄贈、画集の監修等々の後、2009年に日本で亡くなりました。

玄関は道路側なのですが、そちらは締め切ってあり、観覧の入り口は庭のテラスから直接キッチンに入るのです。一歩足を踏み入れただけで、典型的な60年代そのもののフォルミカとデルフトのアンテークタイルのほのぼのとしたキッチンに、 お祖母さんの台所風の懐かしさがあって、実は画法があまり好きでなかったフジタに、急に親近感を覚えました。急須、電気釜、手動の小さなかき氷機などの日常のオブジェ、フジタお手製陶器の絵皿や水差しは、まるでさっきまで藤田夫妻がここにいた、と思えてしまうくらい。
キッチンのテーブルの上には、綿の地味な着物柄の風呂敷テーブルクロス、フジタ自身が縫ったというテーブルクロス、壁の何やら小さいキーボックスのような箱も彼お手製の小さいカーテン付き。自分の洋服まで縫ったというフジタは、アトリエにミシンを置いているのです! 
要所に配置されたフジタの手作りの棚、飾り棚、洋服かけはどれもモダンな模様のレリーフが彫られています。スペインから持ち帰ったアンティークの木のドアが2つ、ダイニングの食器棚も、ちょっと記憶が曖昧ですが確かスペイン風。一方2階のリビングは、当時最新だったであろうモダンなデザインのソファーベッドとスカンジナビアのローテーブルが中央にあります。主寝室は別にあり、普段はソファーとして使われていたもので、今時の安っぽいソファーベッドと違う恐らく高級品。驚くほどフジタの存在感が家中に一杯です。あまり好きではなかったフジタの絵を、全く違った目で見直してみなくてはと思いました。
写真撮影が禁止だったのがとても残念・・・

                by Télérama

3階は全部フジタのアトリエです。保存の為に窓を閉めてほの暗い中に、ひときわ目立つのが、一方の壁一面を覆うランスのチャペルの壁画の下絵。
画家ならば誰でも、ルネッサンスの巨匠の絵に魅せられない人はいなでしょう。ランスのチャペルの壁画が完成したのは1966年、フジタは80才です。彼はこの最後の大作に、自分の夢をつぎ込んだのだと思います。最も古典的で永遠なルネッサンスの巨匠たちが描いた主題、しかも昔通りのフレスコ画ですもの、古の巨匠がやったのと同じように、マリアの周りに集まる人々の顔を、実在の人の似顔・・ジオット、ミケランジェロ、ダヴィンチ・・にしたのです。フジタ自身の顔はないのですかと説明の方に聞いてみましたら、この習作にはないのですが、ランスのチャペルの方にはちゃんと彼の顔も描かれているそうです。やっぱり!

      丘の斜面の下り坂の庭

ヴィリエ・ル・バクル村までの道には、小川が流れ、森の中にはヒヤシンス・ソヴァージュの紫の花が群生していたり、下写真のように、まるでピサロの絵のような光景に遭遇する楽しいハイキングでした。

Maison-Atelier Foujita   7/9 Route de Gif  91190 Villiers-le-Bâcle
平日は要予約。週末は予約なしですが、数人集まるのを待って案内役が付いての観覧のみ。オープニングの曜日、時間等は季節によって変わるので、必ず調べてから行きましょう。

RERのB線 のMassy Palaiseau駅から村までバスがあるそうですが、本数が少なそうなので要注意です。 駅前に客待ちのタクシーがいることはまず期待できません。手っ取り早いのはやはりGif-sur-Yvetteジフシュルイヴェット駅からハイキングする事です。車の通る道路を避けたハイキングコースがありますが、表示は見にくいので、ハイキング用の地図を持参しましょう。