10/16/2015

ロバート・ウィルソンのマダム・バタフライとオペラの舞台裏

by L'Opéra de Paris
Madame Buttefly de Robert Wilson et la coulisse de l'Opéra Bastille

10月も半ばになると、オペラのシーズンたけなわです。今年のオペラ座は、今まで最も人気があり傑作とされた過去の演出の中から、3つのオペラ、ロバート・ウィルソンのマダム・バタフライ、ミヒャエル・ハネケのドン・ジョヴァンニ、ローラン・ペリーのプラテ(ラモー)がシーズン初めを飾って再上演されています。中でもバタフライは特に、音楽、演出、オーケストラ、歌い手、全部の要素が最高に揃った時には、どんな素晴らしいオペラを生み出すかのお手本のようでした。
バタフライの演出というと、変な着物や髪形、おかしなアジア趣味が、日本人の私にとってはなんともうるさく感じられ、黒いシンプルなドレスで歌ってくれたほうがマシなのにと思うことがよくあるのですが、ロバート・ウィルソンの演出は私の願い通り、黒と白のシンプルなドレスだけ。ヨーロッパのメリハリのある体格の歌手達に無理に似合わない着物を着せずに、長い袖とストレートなシルエットだけで着物を表しています。私の見た日はバタフライ役がエルモネラ・ヤーホで、素晴らしい声と演技に加えて、上の写真の人よりずっと小柄で繊細で役柄にぴったり! 最後は思わず涙がこぼれそうに・・・。

 
コスチュームが欧米でよく言ういわゆる ″禅″ 風なら、大道具も禅ガーデンです。白砂と庭石、渡り廊下だけで構成され、歌舞伎、又は文楽の人形の動作に似た登場人物の滑るような独特の動きと、ワンシーンだけが赤い外は、すべてブルーの様々なトーンの照明が、蝶々さんの心の動きや運命を表し、とても美しい。 ″ボブ・ウイルソンほど照明を重視する演出家はいない″ との照明係の談話が、ニュースレターに出ていました。
ちょうど9月にオペラ・バスチーユの舞台裏見学に招待され、この大道具を実際に見るチャンス恵まれました。上の写真は石庭の白砂と、溶岩のようなのは庭石で、鉄枠の上に固定され、解体せずにそのままレールで移動するようになっています。

上はその日上演予定のドン・ジョヴァンニの舞台を、裏から見たところ。近代の高層ビルをイメージしたものです。下はまるで工事現場のような機械類。
          
    
       床のレール          各スペースを完全に独立できるシャッター
舞台裏といっても、飛行機の格納庫のような巨大なスペースが中央、左右、更に後方にあり、3つくらいの異なるオペラの舞台を同時に準備し、それらを組み立てたままで保存し(組み立ては地下でする)、レールを使って舞台に設置できるようになっています。バタフライとドン・ジョヴァンニを交互に上演することがどうして可能か、これでわかりました。
写真がピンボケなのは、四方八方からライトが当たり、それが光沢のある床や金属に反射してとても撮りにくかったためです。
 
上のトタンの倉庫のようなのはリハーサル室。オーケストラが加わる前に、ピアノの伴奏で指揮者と歌い手達が練習する場所で、勿論防音。舞台で外のオペラを上演中の時でも、練習ができます。びっくりするのはこのピアノの反対側に完成した大道具が設置されていて、実際に歌い手がその中で動き、演技し、歌えるようになっていてます。この日は10月後半に上演のモーゼとアロン(シェーンベルグ)の舞台が設置されていましたが、卵の内側のような半球に強い光を当てたただけの真っ白に輝く舞台で、写真は断念。(モーゼとアロンはコスチュームも真っ白なのを縫製室で見ました)
     
上は、さらに後方にある大道具の制作室。これも体育館がすっぽり入るような巨大なもので、まさに工場です。左の半透明の壁は、ドニゼッティ―の愛の妙薬(11月上演)の大道具の一部。
     
これが階上のコスチューム制作部。日曜日だったのでスタッフがいないのですが、ミシンがずらっと並んで、これも縫製工場のようです。中央の茶封筒はマダム・バタフライの資料。このような資料が、3方の壁の天井近くにずらり。使った衣装はどうなるかというと、特別なものは美術館に行くものもあり、またオークションで一般に売ることもあります。
衣装からアクセサリーまで、下写真の織りネームが付けられ、1つのオペラ毎にハンガーラックに下げて、最終チェックをパスしたラックには ″検査済み″ と書かれていました。
これはカツラ室。歌手一人ひとりの頭の型を造り、本物の人毛を一本一本植えてカツラを作るという、気の遠くなるような作業です。自分の毛では演技中に汗をかくなどセットが崩れることが多く、特に女性は殆どがカツラとのこと。コーラスの人達も加えると大変な数になりますが、オペラの常連の歌手のカツラは保存されて再度使うことができるし(ロングヘアが1つあれば、色々なアップに結うことができるし、人毛なのでカツラを染めることもできる)。コーラスの人達はみな、色々な演出家の注文に対応できるように、各自色や形の違うカツラを5つくらい持っているのだそうです。

私たちが普通目にする舞台と客席のある部分は、実は建物のほんの一部で、その後ろは、沢山の工場が集まった一つの町のようです。また地上の部分と殆ど同じ容積の地下があるのだそうですが、そこまで全部見る時間がありませんでした。廊下の長さをトータルすると、なんと33キロメートル! 健脚な人が丸一日かかってやっと歩けるくらいの距離でしょうか。

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