3/29/2019

"STILL" デンマークの静寂


"STILL" l'exposition photo de Trine Søndergaard

便宜上 still は静寂と書きましたが、静止して動かないという意味もありますね。正に静寂と、時間が止まってしまったように静止したシーンばかりを集めたデンマークの写真家 Trine Søndergaard トリヌ・ソンダガッド(正しい発音ではないかもしれません)の作品は、騒がしい日常を一時忘れさせる力があります。以前 "ある後姿" というタイトルで、デンマーク絵画に見られる女性の後姿について2度書きましたが、ソンダガッドの作品も、やはり女性の後姿・・

展示はGuldnakka と Interior の2つのシリーズで構成されます。Guldnakka は18世紀に富裕農家の女性が被った繊細でゴージャスな金糸の手刺繍のヘッドアクセサリー。Guldnakka を被った女性を大きく後ろから捉えたシリーズ(大きさは下の写真参照)と、家具も何もない、多分誰も住んでいない荒れた大きな館の内部。異質な2テーマでも、そこにあるのは心の休まる、しかしミステリアスでもある静けさ、微かな空気の動きも無い凍結した静寂。現実に背を向ける後姿?空っぽの館は非現実な夢の世界?



デンマークでは19世紀に女性の後姿を描くのが流行ったのだそうです。ちょうどその主流となったウィルヘルム・ハンマースホイ展がパリのジャクマール・アンドレ美術館で開催中なので、二本立てで鑑賞できる素晴らしいチャンスです。トリヌ・ソンダガッド自身が、ハンマースホイの "Interieur, Strandgade" に影響を受けたと言っていますから。ハマースホイを見たらまたブログに書くつもりです。後姿に魅せられてしまいました・・・

by Vilhelm Hammershoi

"STILL" Trine Søndergaard    Maison de Danemark  142 Av. des Champs Elysees 8e 5月26日まで

過去の関連ブログ:
*   https://kaleidoscope-design-paris.blogspot.com/2017/04/no2.html
** https://kaleidoscope-design-paris.blogspot.com/2016/10/blog-post_8.html

3/19/2019

ブルレック兄弟の個展


Les dessins de Ronan et Erwan Bouroullec 

フランスの誇る兄弟デザイナー、ロナン&エルワン・ブルレックの個展が、ギャラリー・クレオで開催中です。個展と書いたのは、彼らの専門のファーニチャーや内装デザインではなく、フランス語でintimeと表現したいような、彼らのもっと個人的なアート作品を見ることができるからです。ギャラリーとブルレック兄弟のコラボは2000年以来と歴史があり、個展もこれが11回目。


1999年からずっとデュオで活躍する2人ですが、この個展は各自独立した作品の展示です。面白い事に全く違うアプローチ、全く違うエステティック。



ロナンは光沢のある紙の上に、全手描きの殆どがモノカラーの作品。日本のカラー筆ペンを使っていると解説に書いてありました。拡大しないと写真ではわかりずらいのですが、一筆書き的な "線" の集合で構成されたフォルム。これらの作品は毎日少しずつ描き足されたものだそうで、エルゴノミックでオーガニックな、まるで子供の絵のようにリュディック、植物的、宇宙的な不思議の国。

一方エルワンは全てコンピューターを使ったディジタルアート。しかもこのために特殊に開発されたソフトウエアを使用し、写真がベースになっているそうで、彼が目で見た物とディジタルのミックスです。コンピューター使いと聞くと非人間的な先入観がありますが、森、野原、輝く太陽などを感じさせる暖かさと、繊細なカラーが踊り、引き込まれるような奥行きのある、家に飾りたいなと思うようなアブストラクション絵画です。確か全部売り切れでした。

私は建築家やデザイナーが構想を練る時に描くエスキース、手描きのデッサンが大好きです。絵は筆跡と同じようにとても個人的でユニークなので、デザイナーの本質が出るし、そこから彼らの作品への理解も深まります。ブルレック兄弟の絵を見ていると、彼らのデザインの形、素材、触感、質感など、デザインのエッセンスを見ているような気がしました。

3/09/2019

シエナ・ドゥオモの大理石細工の床


Marqueterie en marbre de Duomo de Siena

このブログで取り上げるテーマは、多少の例外を除いて、アバウト1900年以後のアートとデザインに絞ろうと思っています。今日はその例外、イタリア・ルネッサンス14~16世紀の芸術の事、それが時にはすごくモダンだというお話です。

春休み(フランスでは冬休みと呼ぶ)に、トスカーナ地方の古都巡りに行ってきました。まだシーズンオフでお店やレストランも半分以上閉まっていて、心配したシエナのドゥオモも、並ばずスッと入れてラッキー。内部の素晴らしさに圧倒されました。

特に感激したのは広い内部を覆う大理石の寄せ木細工の床。聖書の物語を表した大きな物は特に圧巻、素晴らしくダイナミックで美しい線、現代に通じるモダンさ。これって500年前のマンガじゃない ?!

 

下は運命の歯車にしがみつく人、それを囲む4人のギリシャ哲学者が手にする紙には、運命についての教えが(ラテン語で)書いてあります。つまりマンガの吹き出し‼
  
ジオメトリーとデザイン化されたデッサン、円柱のストライプの洪水。

スペイン、フランス、ドイツ等の同時代の教会建築と比べると、派手というかとても斬新。どんなに装飾があっても、全体的にとても軽く、明るく、圧迫感がない。フィレンツェのドゥオモ等ブルネレスキの建てた教会内部も、無駄のない計算されつくしたジオメトリーで、クールという表現がぴったり。ジオ・ポンティなどイタリアのデザイナーがどこから来たのか、わかるような気がしました。


聖堂のファサードは(写真撮り忘れ)、白、緑、ピンクの大理石で彫刻や捩じれた円柱が一杯の過剰装飾なのに、まるで太陽を浴びて輝くホイップクリームのように軽く見えます・・

注 : 大理石細工の写真は、床に広がる絵を撮ったので、手前の足の部分が拡大され、遠いほど小さくデフォルメされて見えます。