2/24/2021

ブランクーシの墓石騒動/ モンパルナス墓地


Une sculpture tombale de Brancusi/
Cimetière du Montparnasse

20世紀の初頭、ロシアのキエフの裕福な家庭出身のTatiana Rachewskaïaタチアナ・ラシュヴスカヤという若い女性が、パリの医学部で勉強していました。タチアナはある医者と恋仲になったのですが、やがてその当時の小説によくあるような破局がやってきます。絶望したタチアナは23才の若さで自殺、1910年のことでした。お墓に飾られた彼女の写真は、メランコリックな顔立ちの、まるでチェーホフの小説から抜け出したような人・・・カトリックでは、自殺者は普通の埋葬ができないのですが、ロシアから駆け付けた母親が神父に頼み、モンパルナス墓地に埋葬し、当時全く無名で、ロダンのアトリエから出て独立したばかりの彫刻家ブランクーシに依頼して、墓石を飾る像を作ってもらいました。
ここまでは小説そのもののストーリーですね。しかし1世紀近く経ってから、ロマンティックとは程遠い現実的な "お金" のストーリーに展開します。
原因は、無名だったブランクーシが、当時を代表する有名な彫刻家になってしまった事です。当然彼の作品の価値はうなぎのぼりに! 2005年にニューヨークで、彼の作品が彫刻としては最高の2,700万ドルという値で落札されるや、パリのあるディーラーがロシアのタチアナの親類を探し出し、タチアナもブランクーシも寝耳に水だった彼らも、直ちにこの像をフランス国外に持ち出す許可を申請します。
                                                     by l'Express
この作品のタイトルはBaiser接吻。プランクーシは同じタイトルで異なる40数点のシリーズを作ったそうで、お墓に使われたのはその第2作め、また90cmと一番大きく、推定価格は5,000万($か€か不明、でもどちらでもすごい額です)。フランスの文化財管理局も直ちにこの像を重要文化財に指定し、以後お役所とタチアナの親戚との間に、15年もの闘争が展開されます。像の台となる墓石にブランクーシのサインがあり、像と墓石は切り離せず、不動産とみなされ動かすことはできないというのがフランス側の理由で、ひとまず法廷ではフランス側に軍配が上がりました

大金を目の前にしながら手に入れられない怒った親戚たちは、それならばこの像は誰にも見せないと、木箱で覆ってしまいました。表向きの理由は、像を雨風から守るためと・・ブログトップの写真が、この木箱を被った現在の写真です。しかも警報と3方からのカメラの厳重な警備付きです。

しかし昨年末に急な進展がありました。墓石とブランクーシのサインは、墓地の側の墓石店に注文されたものだと証明する領収書が見つかったのです。墓石店が造り、ブランクーシが作った物ではないので、像とは一体ではなく、そのため切り離してもよいとの判決が下りました。
いつ箱が取り外されるか、いつ持ち去られるかは発表されていません。いずれはどこかのオークションで高値で売られるのでしょう。かわいそうなのはタチアナ。台石と像があまりに垂直で、バランスのいいお墓ではないけれど、像が取り外されたら、寂しくなりますね。
ブランクーシもモンパルナス墓地に葬られているのです。フランスの表現にse retourner dans sa tombe というのがあります。(ショックやら憤慨やらで)死者だってお墓の中で寝返りをうつという意味で、さぞかしブランクーシは今、お墓の中で落ち着けないことでしょう・・・


タチアナのお墓は、モンパルナス墓地の端の端、三角に狭まった壁際の一角にあります。上写真の矢印の所。埋葬した母親の資金不足というよりは、自殺は罪とされていたので、隅に目立たなく葬られるしかなかったのかも知れません。
この墓地の案内図には、有名人のお墓のリストと場所が書いてあります。沢山あるでしょう! 良いお天気が続きそうなのにCovidでどこにも行けないので、週末は散歩者で賑わいそうです。

ブランクーシとエリック・サティ 

2/11/2021

ダニエル・ビュランのインスタレーション

Danel Buren au Galeire Kamel Mennor

美術館、劇場などが全部閉まっている中で、まだ営業している文化の香りがする場所は、今はわずか図書館と書店、そして画廊くらい・・・Covid景気の冷え込みでクローズの画廊もある中、やはり大手の画廊達は頑張っています。その中で、ダニエル・ビュランのインスタレーションを見てきました。

ダニエル・ビュランというとストライプ。美術館の壁に飾られた単純なストライプの油絵だけ見れば、これがどうしてアートなのか  ?と思ってしまいますが、そのシンプルなストライプの面白さを最大に引き出したような作品が、今回のインスタレーションでした。

上の写真の矢印が画廊の入り口。ブログトップの写真は同じ壁で、入り口からビジターが入っている所。しかしこれは全部ミラーで、本当の入り口は左の矢印の方向で見えません。右側のポニーテールの女性だけが本物です。

道路側の壁にはカラフルな窓が並び、シェードがゆっくり開閉して始終形が変わりムーブメントがあります。中央は、写真ではよく見えませんがミラーの付いた四角の柱が均等に並んでいるのです。よくわかるように、線と矢印で柱を区切ってみました。どこまで実物で、どこからが鏡なのか ? 人物が本当はどこに立っているのか、現実と幻想・・・

入り口の広いスペースに変わって、奧はもっと狭い空間。しかも少々薄暗く、同じく開閉する窓の色は、ぼうっとほのかに光る蛍光色でより非現実感があります。
 

写真を撮れば必ず外のビジターが写ってしまう空間、そして人物が入っていればこそ面白いのです。ここではビュランが拘るストライプの効果が最高に発揮されます。ストライプの鏡だから、こんなに面白いのです。一番上の男性はどちらが本物なのか ?  上の2人の女性の映像は全部鏡の偽物のビジョンです。本物は私の視界には存在していません・・・ちょっと哲学的に考えると、存在とは何か ? ・・そこまでマジメにならなくても、不思議の国のアリスの楽しさ。ダニエル・ビュランの作品は100%好きにはなれないけれど、今回の展示は素敵でした。

Simultanément,  Galerie Kamel Mennour, 5, Rue du Pont-de-Lodi 6e
2月27日まで