4/24/2021

再び悪の華/ 写真家ナダール

                

Encore " Les Fleurs du Mal" / Photographe Nadar

以前に花屋のウインドーに飾られていた、ルイス・ジョスのイラスト付きのボードレールの "悪の華" について書きましたが、今日はその続きです。

この間、同じお店の前を通ったら、今度は古風な悪の華が、スイートピーやボタンと一緒に飾ってありました。どうもこの台にはいつも本が飾られているようです。オーナーは、本当にステキな趣味の人なのですね!


よく見ると写真の下にナダール撮影と書いてあります。ボードレールというと必ずでてくるくらい有名な下の写真もナダール。彼らは親友だったそうでナダールは彼の肖像を沢山残しています。

本名ガスパール=フェリックス・トゥールナション Gaspard-Felix Tournachon、通称ナダールは、ジャーナリスト、風刺画家、写真家で、小説も書き、飛行機や気球にも情熱を燃やすマルチアーティストでした。当時の売れっ子だったのに、なぜかその後すっかり忘れられてしまいました。しかし彼の作品を、現代の私達は知らずに、実はけっこう目にしているのです。それは彼の撮った数々の肖像写真。彼の写真の美しさは評判で、沢山の有名人が押しかけたそうで、それらの肖像が、彼らの本や展覧会のカタログ、学校の教科書にも沢山使われて現代に生き続けているからです。ユーゴ、デュマ、ドネルヴァル、ジョルジュ・サンド、ジュール・ヴェルヌ、クールベ、ドラクロワ、コロー、リスト、サラ・ベルナール etc.etc. .....

花屋の店頭の悪の華のボードレールは、病的なしかめ面でなくて、なかなかダンディーに写っていると思いませんか?

ルイ・ジョスの悪の華

4/13/2021

2021年プリツカー賞受賞者アンヌ・ラカトン&ジャン・フィリップ・ヴァッサル



Le Prix Prizker 2021 récompense Anne Lacaton et Jean-Philippe Vassal


建築界の最高峰プリツカー賞2021年の受賞者は、フランスのカップル建築家アンヌ・ラカトンとジャンフィリップ・ヴァッサルが選ばれました。それぞれ49、50人目のこの賞受賞者となり、フランス人としては1994年クリスチャン・ド・ポルザンパルク、2008年ジャン・ヌーベルに続いて3度めの栄誉です。
ラカトン&ヴァッサルは、巨大なスタジアムや斬新なデザインの大美術館など、ランドマークになるような注目の建築物を1つも創っていません。いわゆるスター建築家ではなく、受賞のニュースで注目を浴びるまでは、一般の知名度は殆どありませんでした。なぜかというと ≪古い建物を絶対壊さない≫ のが彼らのポリシーで、壊さず、使える元の部分を活かし、ローコストで快適な《改装、修復》を得意としているからです。しかも改装するのはパレスではなく、メインは庶民の住む総合公営住宅という、今までのプリツカー受賞者のプロフィールとはだいぶ違う特異な存在。


パリに一つだけ彼らの手がけた建物があるので、早速見てきました。トップの写真が全様、上の写真がその拡大です。元の建物はのっぺりした直方体で、窓は上半分だけのずっと小さなものでした。しっかりした元の骨組みはそのままに、それに壁いっぱいの広い窓のあるサンルームとバルコニーを加え、空気が流通し自然な温度調節が可能な(光熱費50%節減)、明るく広いスペースのアパートに改造したのです。
付け足された部分は赤と青の線の部分。アパートのサイズによって、サンルームは16~33㎡、バルコニーは6~18㎡あるそうです。Lacaton & Vassalのサイトから拝借した下の写真を見てください。

            by Lacaton & Vassal

急にこんなに広く明るいスペースがおまけで我が家に加わったら、誰もが大喜びですね !! ワンフロアの総面積は、元の8.900㎡から12.460㎡に広がりました。しかも総工事費は、取り壊して新しく建てる場合の、なんと1/3だったのです。
これは本当に、スゴイ事・・・
パリ市の周りには、というよりフランス中に、数えきれないくらいの60-80年代に建てられた安普請の団地が、みな老朽化して取り壊しや改装を待っているのですから、それを安価でより快適に改造し、資材のムダも防げる建築は、まさに希望の光です。

              by Lacaton & Vassal

工事は上写真ように、住民が住んでいるままで進められたそうです。老朽化したエレベーターや配管を全部新しくし、内装もやり直したのですから、どうやったのか素人の私には想像もつきませんが、これもコストダウンに貢献したはずです。


彼らの受賞になぜ ? という疑問を持つ人がいるようです。しかしプリツカーを選ぶハイヤット財団は、今回の賞によって、華やかでも豪華でもなく、デザイン性や、あっと驚く斬新さもない公共住宅の改装を専門とする建築家でも、その技量によってはノーベル賞級の評価を受けられる事を世界に宣言したようなものです。つまり建築家はリッチな人ばかりの為に存在するのではないというわけ。そして壊さず、資源の有効な利用と、廃棄物を出さないエコロジックでローコストな点も、地球の将来を考えれば、これからますます発展させなくてはならない課題です。当然の受賞ではないかしら。今後ラカトン&ヴァッサルに続く建築家が沢山現れ、無意味に奇抜な建物が増えないといいですね。

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