7/25/2020

アクテオンと女神ディアーヌのカリアテッド 


Etonnantes cariatides de la rue Boulay

17区のブーレィ通りは、あまり魅力的とは言えない近代建築のアパートが並ぶ、自動車の通りも少ない静かな通り。そこを歩いていると・・・
 プチ・セール通りとの角のアパートの壁に、おかしな出っ張りが見えてきます。
よく見ると、鹿の頭をした男に、犬が飛びかかっている彫刻。
 そう、これはギリシャ神話のアクテオン。
アクテオンと言えば対になるのは女神ディアーヌ・・・で、彼女はこちらにいます・・

突然現れたこの彫刻は、バルコニーの部分を支えるカリアテッド。カリアテッドとは柱の代わりに、屋根やバルコニーなどを支える装飾的な像(多くは女性)で、パルテノン神殿の天井を支える、古代ギリシャの優雅なドレープのコスチュームを着た女性達のカリアチッドが特に有名ですね。


ブーレイ通りのカリアテッドは、狩猟中に女神ディアーヌの水浴び姿をのぞき見してしまったアクテオンが、怒った女神に鹿に変えられ、自分の猟犬に食い殺されてしまったというギリシャ神話のお話が元です。左右が男女、背景もアクテオンのキュービスト的な岩、ディアーヌのアールヌーボー風な植物と、全く異質なのにうまくペアになっていて珍しいし、セクシーで残酷な意味深の神話とは縁遠い、平凡な建物に忽然と現れたカリアテッドも珍しい・・・作者のフィリップ・ルビュッフェは、ブーレイ通りとプチ・セール通り(Petit serfは小鹿の意味)の角なので、鹿のイメージからインスピレーションを受けてこの神話を元にしたのだとか。1987年の作品です。

個人的にはあまり好きな彫刻ではないけれど、ディアーヌのバックの植物は迫力があります。

Cariatides de Philippe Rebuffet "Actéon changé en cerf"
パリ17区、rue Boulay ブーレイ通りと passage du Petit-Cerf プチ・セール通りの角

7/15/2020

ジャンフィリップ・デロームの ロサンジェルス・ランゲージ


Jean-Philippe Delhomme/ Los Angeles Langage

今ジャンフィリップ・デロームのしゃれたイラストが、マレのペロタン画廊で展示中です。タイトルは "ロサンジェルス・ランゲージ" 。アメリカが大好きなデロームが、ロス滞在中のスナップショットを元に描いたイラスト展です。


作品は3-4点を除いて、A5からA3くらいの小品ばかりのオイルペインティング。ロサンジェルスの、何の特徴もないような建物やガレージを殆ど真正面から捉え、何の音も聞こえず動きの止まったような、ちょっぴりノスタルジックなシーン。ファッショナブルなイラストで有名な彼に珍しく、全く人物が登場せず、その代わりに車が重要なポイントです。私はこっちの方が好みなので満足。

                                                                              by Galerie Perroton

外出禁止や厳しい規則は緩和され一見平常に戻ったようでも、コロナウィルスの脅威が社会全体を覆い、スッキリしないままフランスはヴァカンスに突入しました。とても中途半端・・そんな時、デロームのトニックなイラストが、ちょっとだけうっとうしさを追い払ってくれました。
Los Angeles Langage, Galerie Perrotin   75 Rue deTurenne 3e  10月17日まで

ルイ・ヴィトンのトラベルブック/ ニューヨーク、ジャンフィリップ・デローム

7/05/2020

色の歴史・黄色 / ミッシェル・パストゥロー


"Jaune" Histoire d'une couleur/ Michel Pastoureau

黄色は欧州で歴史的に、裏切りや嫉妬、不誠実さなど悪いシンボルとして使われるという事を、シンボル、エンブレム、色の研究で名高い歴史家ミッシェル・パストゥローの、"色の歴史・黄色" という本で知りました。そういえばキリストを裏切り、お終いには自殺するユダは、黄色の服を着て描かれますね。最も明るい色なのに、それゆえに危険信号とか、あまりいい使い方をされない色・・
色は元は自然現象でも、人間の歴史と社会に密接に関連して進化してきたのです。

この "黄色の歴史" は青(2002年)、黒(2008年)、緑(2012年)、赤(2016年)の歴史に続いて、去年2019年に発表されました。パストゥローは膨大な著書があり、特にこのカラーシリーズは人気で、世界30か国語に訳されているとか。日本語版も販売されています。
一番人気のある色は、ダントツで青だそうです。フランスでブルーと言ったらまずはサッカーで、フランスナショナルチームの代名詞。彼らが勝つたびに、ユニホームの色ブルーはますますいいイメージに進化し、人々に好まれるのです。
そして一番人気の無いのが黄色!

黄色は太陽、実った麦の色、富の象徴黄金の色として元々はとても良いイメージで、エジプト、古代ギリシャ・ローマでも沢山使われていました。それが中世になると、良と悪のイメージが交錯した曖昧な色となります。王族や聖人を意味する金ゴールドと黄イエローが区別して使われるようになり、イエローの方は、目立つのでユダヤ人を区別する色、絵画では異端者、死刑執行人、裏切り者に使われる色になり、15世紀を過ぎると、黄色の需要はガタ落ちに。その大きな理由の一つは宗教改革で、プロテスタントの国では派手な色は敬遠された事。またカトリックの国でも、上等な黒の衣装に豪華な純白のレースがファッションの主流に。この時期に黒と黄色の人気は大逆転し、黒は高貴な色に。18世紀になると、一部エキゾティックな東洋趣味として、またゴールドをより光り輝かせるために黄色が富裕階級のインテリアに使われたり、フラゴナールなど、黄色使いの素晴らしい画家も登場しますが、やはり一般には使いづらいマージナルな色。

近世は、黄色がオレンジと共に沢山使われるようになります。特にコンバンショナルな色ではないので、ポスト印象派のナビ、フォーブ等の革新的な画家たちが好みました。でもやっぱり売春婦とかキャバレー、サーカスの色は黄色なのです。
ブログトップのクプカの黄色のポートレートを見てください。タバコを持つ手から椅子にもたれたポーズ全てに加えて、特にこの黄色が、彼のエゴをピタリと表現している・・・派手で危険な個性氷のように冷たく、しかしちょっとでも触ったら火傷させられる、他人を容赦しない、ひょっとしたら性格異常、猟奇的かもしれない・・こんな男には近寄らない方が無難・・それを黄色が叫んでいるようです。

またパストゥローは、黄色はグレイ、緑、ベージュなど混ぜる色によって、また暗色と組み合わせると、限りなく寂しく、胸騒ぎのする、又は空虚な色にもなるとして、上のホッパーの女性の帽子を例に挙げています。ほんの少し緑がかった黄色、写真のカラーが鮮明でないのが残念。

フランス語の rire jaune 黄色く笑うという表現が、どうして黄色なのかハタと思い当たりました。黄色のネガティブな方の意味から来た言い回しで、取り繕うような無理な笑い、皮肉な笑い、不実な笑いなどを意味するのです。
著者のミッシェル・パストローは歴史家なので、専門的な説明がありすぎという気もしますが、読んだ後は、あ、あれはそれで黄色なんだ・・などと思い当たる事もけっこうあって、世の中を見る目がちょっぴり変わりました。

結論 : 入学や就職の面接、知らない人の沢山集まるパーティー、結婚相手のご両親に初めて会うなどという時は、くれぐれも黄色のドレスは止めましょう。そう言われなくても、黄色を敢えて着る人は少ないし、黄色のドレスはめったに売っていない・・これも黄色のイメージがやはりよくない証拠でしょう。