8/31/2015

リュシアン・クロール/ 最悪な物を修正する!


L'exposition Simone&Lucien Kroll "Réparer le désastre"

使い捨てが美徳とされた高度成長期の60年代に、リュシアン・クロールはすでに無個性で工場で企画生産された住居に反対を唱え、また人々に先駆けてエコロジーを提唱したパイオニア的建築家。建築と文化財美術館に別の展示を見に行って、ついでに軽い気持ちで入った展示に、すっかり夢中になってしまいました。

ゴージャスでメディアにおもねる建築には興味がなく、ババ・エコロ(ババクール・エコロジスト)、マージナルと思われフランスではあまり知られていない彼は(私も新発見)、この展覧会をするに当たっても、メディアに派手な宣伝をしたり、大掛かりな会場を作らないで ″田舎者の展示” にしてほしいと希望したそうで、学校の展覧会のようなパネルだけのシンプルな会場でした。
″何も壊さず、付け加える″

それらのパネルは数々のテーマ別に説明が進んでゆくのですが、一番感激したのは、醜い郊外住宅を、もっと人間的な住みやすい場所に改築した例。土台の建物をできるだけ残したまま、いかにリフォームするかの説明にはびっくりしました。こんな事が可能だとは思ってもみなかったので、高度成長期に作られた郊外の集団住宅の群れは、取り壊さない限り半永久的に消し去れないと考えていましたから。

クロールの建築の姿勢は ″造園″ 的で、自然とその地域、住む人々のとの関連を重視し、過去と未来も考慮に入れて作るので、フレキシブルで長持ちするのです。そのため住人達との親密なディスカッションの時間を沢山取り、設計に参加してもらう・・・造園師のシモーヌ夫人とずっとコンビを組んで仕事をしています。彼の母国ベルギーでの代表作は、ルーベンの医学部の寮で、ちょうどパリの学生の5月革命の後1969年のことで、学生達が機械で作られて提供される物は真っ平だと言って、リュシアン・クノールに設計を頼んだもの。住み、使う人達との対話から5つの建物が生まれたそうです。

ちょうどこの住民との対話というあたりに来て、一緒に行ったフランス人の友人(小学校の先生です)が、″そうなのよね、ウチの学校で絵や工作、実習の為に大きな机のある広いアトリエを増築したのだけど、設計者は流しに2つしか水道を付けなかった。道具や手を洗うのに、1クラスには30人以上子供がいるって、考えなかったのかしら!″ 教師が設計したら絶対犯さない失敗。それにしてもずいぶん間の抜けた設計者ですが、対話がいかに必要かの最も単純で分かりやすい例でしょう。

クロール夫妻の考え方は素晴らしく共感しますが、写真を見た限りで申し訳ないけれど、平面を嫌い凹凸が多く複雑なのと(説明にはカオスと書いてありましたがその通り)、色使いも、あまり私の好みでなかったのが残念でした。やっぱり本物を見ないとわからないので、何か見てみたいなと思います。

Simone&Lucien Kroll "Réparer le désastre"
Cité de l'architecture & du patrimoine   1 Place du Trocadéro 16e

8/25/2015

海と船の書店


Librairie Maritime Outremer

8月ももうすぐ終わり。今週末はバカンス帰りの人達で、駅や空港、高速道路が大混雑になるのですが、まだ今週は閉まっているお店が多く、車も少なく、嵐の前の静けさです。
今年は7月に記録的猛暑で、暑さに慣れないパリジャンは大騒ぎでしたが、暗く長い冬を控えているので、日本と違って、暑い夏が終わってやれやれと喜ぶ人はあまりいません。
ということで、夏の終わりを惜しんで、海の話題を!

サンジェルマンデプレの裏の、私の大好きな通り、ジャコブ通りに、海や船に関する本を集めた書店、リブラリー・マリチーム・オートルメールがあります。海図、船の操縦のテクニックや航海規則、船の整備云々などの船関係、ダイビング、釣り、海軍や商船関係、歴史的又は現代の航海記、海に関する音楽、海をテーマとする料理、インテリア、建築・・・海好き、船好きにはこたえられない品揃えです。子供コーナーもあり。


ヨットもダイビングもやらない私がなぜここに行くかというと、それはあらゆる海がテーマのノンフィクションが揃っているから。今年の夏はフィリップ・シミオという人の“銀行家とオウム”というのを買ってみました。1776年7月4日、アメリカが独立宣言したちょうどその日にフィラデルフィアに入港したボルドーの商船の船長エチエンヌ・ジラールが、アメリカで初めての百万長者の銀行家になるお話で、実在の人物がモデル。オウムは中国の商人組合からの贈り物で、孤独な彼の友。彼の口癖をマネをして“仕事だ、仕事だ!”というのが得意。アメリカに同化しながら、フランス人の目で外からも観察できるジラールの語る建国当時のアメリカ、アメリカの岸から見たフランス革命、ボナパルト、工業手工業の発展からドル至上主義に変遷するアメリカ等、彼が多数の商船の船主として世界中と交易していたために、広い視野と冷徹な商人の目を持って語られるので、最近ぴか一の面白いお話でした。こういう本は普通の書店ではなかなか見つけられません。私は男の子や、少年の心を持ち続けている男の人にも、ちょっとしたプレゼントはここに探しに来ることにしています。


Librairie Maritime Outremer 26 Rue Jacob 6e 

8/09/2015

ポーズカフェ

Pause-café

パリは車が減って道路が空っぽになり、そのかわり南仏の方ではあちこちで車の渋滞が報道されています。レストランもカフェも、夏季休暇でクローズが目立ちます。エッフェル塔やシャンゼリゼ方向のメトロは、外国語ばかり聞こえてきて観光客専用車のようです。
いつもこれらがパリの夏の風物詩・・・
思い切り太陽を浴びて、9月からの1年に備えましょう。このブログも2週間お休みです。Bonnes vacances !

8/06/2015

画家達の村/ グレ・シュル・ロワン


Escapade/ Grez-sur-Loing, le village des artistes

フォンテンブローの南、ロワン川のほとりの美しい村グレ・シュル・ロワンは、昔から画家や作家が沢山集まった村です。まず初めにこの村を描いたのはコロー(1860年代)。“グレの橋”と題した作品が残っています。1870年代にはアメリカ人アーティストが、1880年代はスカンジナビアから(この頃カール・ラーションが勉強に来ています)、最後1890年代に日本人画家が集まりました。一番早く来たのが黒田清隆1888年、そして浅井忠など。

               石造りの小屋のように見えるのは昔の洗濯場
 私が行った日は暑い日曜日で、ピクニックや水遊びをする家族連れ。
 コローの絵と変わらない橋
 教会と、右が村役場
村は小さく、すぐ一周してしまうサイズ。川に映る橋、中世の城跡、花が一杯の細い小道が沢山あり、どこでも絵になる美しさ。画家達が集まったのも当然でしょうね。
 小道の角に、黒田清隆の住んだ家がありました。こじんまりと可愛らしい家です。

国鉄のBourron Marlotte Grez駅から2.5~3kmくらい。最短距離の道は車の往来があり美しくないので、歩きの場合はウォーキングシューズを履いて、近くの村や水辺を巡りながらのハイキングにしてしまった方が楽しいです。車があれば、フォンテンブローと合わせて1日旅行ができるので便利。
村の中心にパン屋さんと食事のできるカフェがあるだけなので要注意。シーズンオフは、カフェもどの程度営業しているかちょっと心配です。その分、観光客のいない、静かな昔のままのグレが満喫できますが・・・

8/03/2015

ネヴァーマインド、ジャン・ロンドー/ ジューヌ・タラン


Nevermind, Jean Rondeau/ Festival Européen Jeunes Talents

6月末~7月初めにパリの劇場がみな夏季休暇でクローズしてしまった後、夏ならではの音楽フェスティバルがあちこちで開かれます。若い演奏家を後援するジューヌ・タランのコンサートに、去年初めて行ってとてもよかったのでプログラムをチェックしたら、今話題集中のハープシコード奏者、ジャン・ロンドーの率いるネヴァーマインドが出ていたので、行ってきました。
ジャン・ロンドーは1991年生まれの24才!数々のハープシコード国際コンクールで優勝し、CDも1枚出した優等生。コンセルヴァトワールの仲間と作った四重奏の名前はネヴァーマインド(ニルヴァナのレコードのタイトル)、四重奏とは別にジャズのグループを組んだり・・ひげ面で、バサバサのヘアスタイルで演奏するのが彼のトレードマーク。でもバロックの正統派です。今回のコンサートでは、テレマンの曲がよかった・・・チェロも素敵だったし、赤一点のバロックフルート奏者にもうっとり。ジューヌ・タランの本拠地、マレの、今は古文書館になっているスービーズ館の中庭を使ってのオープンエアコンサートでした。

下はチェロ四重奏の最終のリハーサル風景(リハーサルは室内)。一般公開しています。右手前の席が空いたままになって、どうしたのかと思っていたら、近くの学校の子供たちが見学にきました。チェロ奏者と子供達との会話があったりと、和気あいあい。


元はカトリック派の頭首ギーズ候の住居だったスービーズ館。
サンバーテレミーの虐殺の首謀者達は、ここの兵士詰所に集まって策謀したのだそうです。


Festival Européen Jeunes Talents   http://www.jeunes-talents.org/