並みのサイズのスペースには入りきらない、大きな作品の多いアンゼルム・キーファーの作品展が、冬休み中に開催されていました。そんな規格外のものを、しかしすっぽりと収められる規格外に大きいグランパレ・エフェメールでの展示です。
グランパレが2024年までの大規模な修復とリノベーション工事中で、仮の会場として去年、エッフェル塔のあるシャンドマルス公園の一角に建てられたのがグランパレ・エフェメール(ephémèreエフェメールとは、短期の、仮の意)。建築家のジャンミッシェル・ウィルモットが手がけました。
仮の会場といっても21~24年まで、美術関係はもとより、ファッション、スポーツ等多数のイヴェントに使われる予定。柱は一本もなく、巨大な44本のアーチが支える横長の十字型、10,000㎡、高さ20m(因みに本物のグランパレは13,500 ㎡、高さ45m)。アーチはその場で3か月という短期間に組み立てられ、エコロジーを踏まえた森林開発の木材を使うほか、解体後は多様な建築に全て再利用ができるのだそうです。
上は入場券売り場のある入り口のホールです。キーファー展とこの銅像は何の関係があるのかと一瞬 ?? でしたけれど、何のことはない、シャンドマルス公園の、ちょうど士官学校の正面に元々あるジョッフル元帥の騎馬像を、そのままグランパレ・エフェメールの中に組み込んでしまったのです。故意か、それとも銅像を取り外すことができなかったのか 、ちょっと面白いアイデア!(多分故意) 新旧の素適なミックスと、通行人に見過ごされていた騎馬像が、こうして見るとなかなかカッコいいこと、大きい事を改めて実感しました。通りの向かい側に見えるのが士官学校。
キーファーは20代で、戦後ドイツの代表的詩人と称されるパウル・ツェランの、ユダヤ人虐殺をテーマとした詩『死のフーガ』を読んで深く影響を受けます。この展覧会も、ツェランへのオマージュとして捧げられました。キーファーの作品は、ナチスを含めたドイツの歴史に加えて、神話、宗教、植物、宇宙などからもインスパイアされ・・なんとなくワグナーの音楽を思ってしまいますが、やっぱりという感じで、ニーベルンゲンの四部作をテーマの膨大な作品があるそうです。今回展示の作品群は、大きさからしてもワグナーオペラのデコールにぴったりかも・・
ドイツ語の詩が読めなかったのが残念、読めたらより理解は深まったでしょう。混んだ冬休み中を避けて、がら空きの最終日近くに行ったのですが、コロナ禍にも拘らずドイツ語が沢山聞こえてきました。
藁、瓦礫、ガラスやメタルの破片など、荒々しい生の素材が塗りこめられた分厚い絵の具。テーマは暗く重く、好きな画法ではないけれど、キーファーの内にあるものがほとばしり出た様なすさまじい力に打たれ、建物の外に出るまで、彼の描く世界をさまよいました。中が広いのでよけいに! 音楽、文学、絵画彫刻等なんでも、真の芸術家は自分の内に『言いたい事』を沢山持ち、それを表現し、人を感動させることのできる人だと思いますが、彼はまさにその一人。(感動には恐怖、嫌悪などネガティブな方の感情も勿論含まれます)一番奥の方に、キーファーのアトリエの一部が再現してありました。格納庫のようなヴォリュームのアトリエのようです。このような作品を展示できる美術館は数が限られるし、保存する場所も大変 !!