10/10/2022

サリー・ガボリ/カルチェ財団

 

Sally Gaboli/ Voici ma terre, ma mer, celle que je suis

近代社会と切り離された南の島で、全く絵画や芸術一般に触れずにほとんどの生涯を過ごした一人の女性が、80才で絵画に目覚め、画家として文字通り第二の人生を謳歌して90才で亡くなった異色の画家、サリー・ガボリの展覧会がカルチェ財団で展示中です。


サリー・ガボリ、正式名はMirdidingkingathi Juwarnda Sally Gaboriは、1924年(推定)オーストラリアの北に位置する離島Bentinckベンタンク島に住むアボリジニ族の村に生まれました。この島には1944年には125人の住人がいたというのですから、とても小さな島なのでしょう。植民地を経て西欧化されたオーストラリア大陸との接触がありながら、ほとんど何の影響も受けず、伝統的な昔のままの生活を続けた最後の種族なのだそうです。キリスト教の宣教師が長年熱心に布教しても、住民の生活を変えることができなかったとか・・・


ところが1948年の激しいサイクロンで、島の飲み水が汚染されて住めなくなり、島の住民63人は宣教師のいるモーニングトン島に避難。ところが短期の避難のはずが、結局モーニングトン島の生活は何十年も長引きます。全くの憶測ですが、その地方の行政の政治的思惑があったのかもしれません、長い運動の末、サリーたちが居住権を認められて故郷の島に帰れたのは、1990年代に入ってからでした。
サリーが80才の2005年、モーニングトンの老人ホームに入っていた彼女は、ある日(多分老人向けの慰安企画ではないかしら)アトリエで絵画に接し、自分で絵を描いてみるチャンスに恵まれます。全く初めての経験 !そしてこの日を境に彼女の人生はガラリと変わってしまいました。


素晴らしい迫力ですね。こんな大きくダイナミックな絵は若者でも体力がいるのに、サリーは立ち続けたり、脚立に乗ったりすることのできない年です。椅子に座り、時には床に座って描く彼女のヴィデオを見ましたが、どこにこんなエネルギーがあったのか驚嘆します。


彼女の描くのは生まれ故郷の島、海、空、自然だそうです。私の島、私の海、そしてきっと "私自身" ・・・


80才で絵を始めて、半年後には初めての個展を、大都市ブリスベンのギャラリーで開いています。その後も90才で亡くなるまで、彼女の作品はオーストラリアの色々な美術館に収納され、そして今回はヨーロッパで初めて、パリのカルチェ財団の展覧会です。彼女の数奇な経歴がプラスα の魅力の一部になっているのかもしれませんが、ストレートに邪念なく自分を表現した力強い作品には、心を打たれました。しかも作品からは全く年令を感じさせないけれど、80才を過ぎたの画家の作品です。鑑賞後はとても爽快な気分 !
彼女の絵は世界を巡るかも・・


 11月6日まで

Fondation Cartier pour l'art contemporain 261 bv. Raspail 14e

9/16/2022

ピクニックテーブル/ ノルウェー の夏 No.2

 

Table de pique-nique 

ピクニック用のテーブルは、どこにもあってあまりにもありふれているので、今まで注目した事が無かったのですが、ノルウェーでは街中や、住宅街のちょっとしたコーナーなど、フランスだったらあるはずのない場所でよく見かけ、ピクニックに限らず利用されているようです。アパートとアパートの間の共同スペース、例えば "コ" の字型に並んでいる3つのアパートの棟に住む住人が、その中心の木立と芝生のスペースに置かれたピクニックテーブルを、上手に共有しているようです。北欧の夏の夜は遅くまで明るいので、昼食に限らず夕食だってそこに持ち出して食べたり、友達が集まって食事とおしゃべりしたり、コーヒーマグを片手に本を読んだり、コンピュータに向かったりと、まるで自分の家の延長。自分勝手をして人に迷惑もかけないし、プライバシーなどどこ吹く風のマイペースでもあります。


よく考えてみると、このテーブルは素晴らしいデザインですね! 
頑丈で壊れにくいし、無駄を省いた単純なデザインで、コストは恐らく安く、安全。テーーブルとベンチが固定されていないデザインのピクニックテーブルは、なぜかベンチだけ盗まれがちだとか。そういえばピクニックテーブルが、地に根が張ったように、どっしりと重そうなのは、簡単に持ってゆかれないための盗難防止も兼ねているのかもしれません。。


9/09/2022

アストルップ・ファーンリ美術館のシノヴ・アンカー・オールダル展/ ノルウェーの夏 No.1


Synnøve Anker Aurdal au Musée Astrup Fearenly/ Norvége

夏休みに、オスロに住んでいる家族に会いにノルウェーを訪れました。ちょうどヨーロッパ中が記録的な暑さの時期でしたが、ノルウェーの場合は霧雨の数日を除いて快晴続きの25℃。とても快適でした。
その雨の日を利用して、楽しみにしていたノルウェーの誇るタピストリーのアーティスト、シノヴ・アンカー・オールダルの展覧会をアストルップ・ファーンリ近代美術館で楽しみました。


シノヴ・アンカー・オールダルは1908年に生まれ、30年代に専門家のアトリエやオスロの国立の女性向きの技術学校などで機織りを習得しました。1941年にプレスティージなオスロのKunstnerforbundetギャラリーで展示したのをはじめとして、ベルゲンのお城の大ホールHåkonshallenを使った、こちらも由緒ある展覧会に定期的に出展するなど、以後機織りの第一人者として活躍。1982年にはベニスのビエンナーレに、ノルウェーを代表して参加しています。

彼女の作品がいかに素晴らしいかは、写真を見て頂ければ一目瞭然ですね。ノルウェーの詩からインスパイアされたものが多いそうですが、ノルウェーの歴史や抒情詩を全くと言ってよいほど知らない私にも訴えかける美しいモチーフは、伝説、歴史、おとぎ話、ノルウェーの風俗や自然などが織り込まれているのが感じられます。
また彼女は社会問題にも熱心で、ポエムとは相反する、そのような現実の問題を、時にはユーモアたっぷりに織り込んでもいるそうです。彼女が好きだったらしい音楽がモチーフによく現れ、ジャズ、ドビュッシーへのオマージュといったタイトルの作品もありました。





シノヴ・アンカー・オールダルのタピストリーは、そのモチーフのベースとなるデッサンが最高で、彼女は画家としても相当なものだったのではないかと思います。でも特にずば抜けているのは、その色使い !!!  正に魔法をかけられたように色が踊っています。私は特に彼女のブルーが好きだったのですが、中でも下写真の作品にはしばしうっとりとして動けなくなりました。タイトルはズバリ Dream of the blue 。1991年、彼女が83才(オー!!)の時の大作です


 タイトルは Hoar Frost 正にアブストラクション絵画そのもの 1966年

オスロは実は2回目で、前回は特別展示がちょうどなかったので、アストルップ・ファーンリ美術館の中に入ったのは、これが初めてでした。展覧会の素晴らしさに多少幻惑されて会場を出ると、レンゾー・ピアノがデザインした建物のメタル、ガラス、外にボーッと霞むオスロの海などが混然となって、こちらも素敵な抽象画を見るようでした・・・


Astrup Fearenly Museet, Strandpromenaden 2, 0252 Osalo Norway
Synnøve Anker Aurdal  

過去のブログ:

アストルップ・ファーンリ、スヴェレ・フェーン/ オスロ散歩 No1

DogA, グリュナーロッカ、アケーセルヴァ/ オスロ散歩No2

8/30/2022

ル・コルビュジエのサヴォア邸/ ナタリー・デュ・パスキエのインスタレーション 

Nathalie Du Paquier expose à la Villa Savoye de Le Corbusier


パリ郊外の、RER線の西の終点ポワシーのサヴォア邸では、ル・コルビュジエの代表作のこのヴィラを背景とした、興味深いインスターレーションが時々企画されます。
この夏はナタリー・デュ・パスキエを招待した、白紙委任(フランス語でカルト・ブランシュ)展。

ではどういうインスタレーションか?というと、上の写真はナタリー・デュ・パスキエの絵と立体が組み合わさったコンポジション。下の写真はそれをサヴォア邸の廊下に置いた様子です。この場合コンポジションの台の部分、白いラインの入ったピンクの棚も、もちろんデザインの一部に含まれているのです。サヴォア邸の内装のドア、窓、戸棚などの直線、曲線、色などに呼応して、全体で面白いハーモニーが醸し出されます。


壁の色、ドアの輪郭、手すりや階段、スロープ、窓から入る光線の幾何学模様、それら全体からインスパイアされたナタリー・デュ・パスキエの作品は、とてもサヴォア邸にマッチしておしゃれでした。
    


サヴォア邸は、現代アートをインスタレーションするのに最適の器ですね。何から何までそれだけで "絵になる" 内装なのですから、それに負けない個性を持ち、且つその美しさをうまく引き出すアーティストとのコラボならば、ぜひ続けてもらいたいもの・・・

    

Carte Blanche à Nathalie Du Pasquier "Chez eux "  9月25日まで
Villa Savoye 82 Rue de Villiers, 78300 Poissy

ル・コルビュジエのサヴォア邸/  ポワシー