10/29/2016

60年代建築の隠れた宝物、小さな丸い図書館

                                                                                                                                          by Clamart.fr
La Petite Bibiliothèque Ronde à Clamart

1965年オープニング以後、建築と教育の面から世界のその方面の専門家の注目を集め続けた、知る人ぞ知る60年代の宝物、小さな丸い図書館。地元クラマー市の資料を見ていたら、あらっ見覚えのある笑顔! 美智子様がここを視察されたのですね、1994年9月6日の写真です。この図書館は93年にフランスの歴史的建造物の指定を受けたので、その翌年のこと。
     by  http://www.clamart.fr/decouvrir-clamart/histoire-patrimoine/fiches-patrimoine/la-bibliotheque-des-enfants-de-clamart/


裕福な工場経営者の家に生まれたアンヌ・シュルンベルジェが、低所得者向けアパートが沢山建築されたばかりのパリ郊外クラマーに、当時珍しかった子供の図書館を私財をつぎ込んで建てました。設計は若い4人の建築家の事務所、アトリエ・ド・モンルージュに依頼。この事務所は当時の売れっ子だったらしく、2008年には建築美術館で彼らの回顧展が開催されたほど。
建物の設計は庭も含めた9つの円の組み合わせ。子供の年齢に合わせた大中小の3つの読書室と、半地下に事務所とお話し室(朗読などができる集会室)があります。年月を経てコンクリートそのままの外観は少し黒ずんでしまいましたが、室内から庭まで、全部のデザインが丸い優しい建物。
    
アンヌ・シュルンベルジェは、子供達が美しい物や優れた物に日常に接することができるよう、什器、ファブリックの選択から庭のデザインまで配慮。インテリアは機能性とヒューマニティ溢れるデザイン性があると彼女が確信した北欧のデザインを中心に、アルヴァ・アアルト、アルネ・ヤコブセン、シャルロット・ペリアンなどのものが選ばれました。おかげで現代の子供たちも、20世紀を代表するデザイナーの本物のヴィンテージの椅子や机を、今でも毎日使うことができるのです。
 
お話し室と、そこに下りる階段。大きな丸いランプは野口勇のデザインで、彼は50年代に岐阜提灯をアイデアソースとした和紙のランプ ″あかり″ シリーズのデザインを始めていて、その頃のトレンドのランプだったのです。
    
読書室
    
                 丸い天窓からの光
     
    
上はらせん階段やトイレ横に並んだとてもかわいいコート用のフックと、入り口ホールにあった、下にはコートを翔けられるフックの付いたラック。これはホントに素敵で私がほしい!と思った什器。どちらもアアルトのデザイン?
    
     
貸し出しカウンターの前には木の面白いオーナメントが。下は入り口ドアの取っ手。
2006年に立ち退き騒動があり、住民が2週間図書館を占拠して守り抜きましたが、今年夏からまた老朽化した建物の修復云々をきっかけに移転の話が起こり、学校大学など教育関係者や作家やジャーナリストが反対運動を始めています。こんなに重要な建物が、郊外のぱっとしない地区にあるのが不動産プロモーター達の野心を掻き立てるのか、市や国の勢力争いなのか・・子供たちが追い出され、もっとファッショナブルな地区に丸ごと移動し、派手なカルチャーセンターやカフェレストランになってしまわないように祈るばかりです。
因みにクラマーのこのあたりはシテ・ド・ラ・プレーヌCité de la Plaineと呼ばれ、ファサードにレンガが使われた50年代の建物が集まっていて興味深く、それらの角と丸い図書館とのコントラストが面白いです。
                                                                    by Petite Bibliothèque Ronde
La Petite Bibliothèque Ronde  http://www.lapetitebibliothequeronde.com/
Cité de la Plaine, 14 rue de Champagne, 92140 Clamart

10/22/2016

デンマークのエコロジー感覚について/ デンマークNo.6


L'écologie selon les habitants de Jutland No.6

しつこくデンマークのお話ですみません。これが最後です!
フランスやイタリア、スペインなど少々だらしないラテン民族と違って、北欧の国民は環境保護の意識が強く、街はクリーンで公害も無いというイメージがありますね。実際そうなのですが、旅行中に、デンマークのエコロジーの感覚が、私が考えていたものとちょっと違っているのを感じました。
このブルーの透明パネルのテラスの並ぶアパート群は、オーフスの海岸の新開発地区で撮ったもの。
向こうには海が見え、リゾートマンションのような清々しさと、街の中心は自転車なら数分の距離にあるという便利さは理想的なアパート。きっと太陽エネルギーのヒーターとか、下水処理など徹底したエコロジック建築なのでしょう。でも上下左右の隣人と接近して丸見えのテラスや、あまりにテクニカルなデザインは、フランス人なら嫌がるかも。
目の前の海はこんな感じ、向こう側に工場地帯が見えますが、こちら側の指定された砂浜では海水浴もできます。近くで泳ぐことを許可できるほど工場汚染の無いエコシステムとは驚くべきこと。もっと驚くのは、水が汚染されていなければ、目の前に工場があっても構わないらしいデンマーク人の合理的なエコロジー感覚。これはけっして批判ではないので悪しからず!
下は釣り人が集まる防波堤から見たところ。後方にはもっと沢山のアパートや駅が工事中。デンマークは少子化が大問題で、移民も厳しく統制され人口増加は少ないはず。オーフスは日本の都市やパリのような飽和状態からは程遠く高層建築もなく、まだまだスペースにゆとりがありそうので、なぜこんな高層建築地区を街はずれに作るのかとても不思議。海の側のテラスのあるアパートに住みたいという需要が高いのでしょうか?
下は ″パレットについて″ という題で先日書いたブログの時に紹介したエコ庭園の風景を、アパートの方から見たところ
そしてこのエコ庭園を海側から見ると、この通り、かなりSF的な眺め!
こちらはヨットハーバーに面した、同じような飛び出した形のテラス。
そしてこちらは街の中心の、丘の上の大学構内にある学生寮のテラス。寮なのでアパートは狭そうだし、同じ飛び出し型テラスでも、椅子が1つやっと置けるスペースしかないけれど、緑に囲まれてこっちの方が断然住みたい気持ちにさせられませんか? 中もぜひ見てみたかった・・・なぜこのようなスタイルのアパートを新しく沢山作らないのかしら・・スペースは沢山あるのに・・

こちらはオールボーのリム・フィヨルド。フィヨルドというイメージとかけ離れて、向こう側は工場地帯。左端の方向にオールボー飛行場もあり。東京の湾岸地区とは比較にならない小規模とはいえ、散歩の時に見たくなる景色ではありません。でもすぐ近くの島では泳げますが。
街の中心のこちら岸は、遊歩道とサイクリングロードが続く広々としたウォーターフロント。あちこちにベンチが置かれ、芝生や花、木立の広いスペースの中に、アパート、大学、美術館等、スタイルの異なる超近代建築が点々と並んでいます。建物によるウォーターフロントの統一感は全く問題にされていないみたい。フランスでは建築規制が厳しくて、高層建築や実験的で斬新な建物が作りにくくて建築家泣かせなのですが・・デンマーク人は新しいデザインが大好きだと誰かが言っていましたが、なるほど、デンマークがデザインに優れているのもそのせいかしら。
せっかくフィヨルドの前なのになぜかテラスの無いこの型のアパートも4つ、広いスペースをとって並んでいました
 オールボーフィルハーモニーのコンサートホールとガラス張りのカフェ
下のUtzon Centerウッソンセンターは、シドニーのオペラハウスを作った建築家ヨーン・ウッソンの作った美術建築デザイン展示館。ウッソンはオールボーの出身。

という感じで、緑多いウォーターフロントではありません。目に見えない所で環境保護が完備しているのかもしれませんが、少なくともフランスの都市計画の感覚とは全く違っています。
実はデンマークの田舎を見たくて、ユトランド半島の北端に近いオールボーからコペンハーゲンまで、6時間の道のりを帰途は空路でなくバスに乗ってみたのです。デンマークは新幹線が無い国だそうで(これも環境の為?)鉄道でも5時間近くかかります。しかし意外に自然が美しくないのにがっかり。平たく起伏が少ないので単調に見えるせいか、緑の中に無骨で四角な工場とその広い駐車場が時々見えて興ざめだったり、海が見えると工場や煙も・・オールボー/コペンハーゲンは一番重要なラインなので、もっと田舎を旅してみなければ・・

昔ながらの建物も大事にされ、絵になる美しい風景も沢山あるのですが・・その周りが問題なのです。


下のの写真は、街はずれのリム・フィヨルドの岸の、ヨット修理や家具作りのアトリエ、アパートやおまけにかわいいブロカントのあった所で、新建築であってもデンマークの伝統的な家と同じようなデザインの建物が並んでいました。色もブルー、黄色、オレンジなど可愛く、私が大好きになった場所。こんなエスプリで街作りをすればよいのに・・
因みにデンマークは世界で一番幸福度が高い国、つまり自分は幸福だと思っている人が多い国として有名で、国民が満足して生活しているのは確からしい。早朝から仕事を始め、夕方早く家に帰り、サイクリングや散歩、島に渡って泳いだりと、夏の名残の太陽を満喫していました。

追加:  ブログを書いてからスカンジナビアの地図をふと見ていて、デンマークがとても小さな国だということに気付きました。土地が足りないのかも・・でもごみごみしたり規格に縛られた街づくりもデンマーク人の好みではないのかもしれません。フィンランド、スエーデン、ノルウェーの北欧3国に比べてとてもとても小さく、リンドグレーンやムーミンのお話しに出てくるような鬱蒼とした森や湖をイメージしてはいけないのかもしれません。どちらにしてもこのブログは、数日滞在しただけの旅行者の単純な感想なのでご理解下さい。どこがいいのか何に魅力があるか不明なのに、また行きたいと思う国なのです。10月24日