1/27/2018

カイヤ・サーリアホとフィリップ・ジャルスキーの新作オペラ、オンリーザサウンドリメインズ、


Only the Sound Remains/ Kaija Saariaho x Philippe Jaroussky


フィンランドの作曲家カイヤ・サーリアホの新作オペラOnly the sound remainsオンリーザサウンドリメインズ上演中で、彼女の今まで一番の傑作と評判です。
日本の能 "経政" と "羽衣" をベースにした2つのお話しからなる2つのオペラですが、経政が黄泉の国と現世、人間ではない幽霊と僧侶、羽衣が天界と地上、これも人間ではない天女と漁師という、背中合わせでも共通点があり、続けて見て無理がありません。

           by Dutch National Opéra
お話自体がファンタジックな上に、歌も楽器もコンピューターを通して非現実的な音色になり、ほとんど装飾の無い舞台に光と影と登場人物の不思議な動きがとても幻想的。オペラというより、歌のあるダンス、音のある絵画、と言ってもよいくらい視覚に訴えます。ジャルスキーが幽霊と天女の声(この人はあまり動きません。彼はあまりアクターではないかも、激しく舞台で動いているシーンは見たことない)。天女の体は女性ダンサーNora Kimball-Mentzosがすばらしい! そして人間である僧侶と漁師はバリトンバスのDavóne Tinesダヴォン・タインズ、彼はすばらしいアクターで、ダンサーでもあるのかもしれない玄人はだしの身のこなし、歌だけでなく体で表現します。
フィリップ・ジャルスキーは、声(歴史に残る世紀の声だと思う)と musicalité 音楽性は最高、そして良い意味でとても頭のいい人ですね。彼のコンサートはいつも何か新しさがあって、マンネリに歌わない。今までにも少しトライアルはあったけれど、今回は本格的に近代音楽に挑戦です。全く未知のオペラでも、彼が歌うのだからきっといいに違いないと切符を買い、期待以上の公演でした。


4人のコーラスも楽器と一緒のオーケストラボックスに。右手の上はツィターのようなフィンランドの弦楽器で、琵琶の音色を表しているそうです。右端の女性の2種のフルート(1つはJ字型の多分アルトフルート)とピッコロから流れる、尺八や横笛のような音色と、左の色々な打楽器の音が、とても印象的でした。

       中央の赤いスカーフがカイヤ・サーリアホ
後半の羽衣は、ライトに照らされて舞う半透明の白い衣やダンサーの動きが美しく、歌も音楽もストーリーも、お話を知らないこちらの聴衆にもすんなり理解できるオペラです。でもその分強烈な印象は薄い。ところが経政は、コスチューム全てシンプルなのに、ライトの使い方が、私にはどうしても日本式の幽霊に見え(西洋の幽霊より凄みがある)  演出のピーターセラーズは、お化けの浮世絵や怪談映画でも見て研究したのかも・・能の経政と比べてみたいと思いました。平家の滅亡、経政が一門の俊才で歌と琵琶の名手であったことなどのバックグランドは誰も知らないのですから、欧米の聴衆にはわかりずらかったかと思います。実は私も歌詞から平の経政、壇ノ浦だったか討ち死にしたこと、エンペラーからもらった琵琶等で想像はできたもののよくわからず、後で能のストーリーを読んである程度理解できました。いまだにナゾなのは、経政と僧侶のホモセクシャルとしか見えない行動! これについては休憩の時に、自然に周囲の人達から、あれは何だったのか、見間違いじゃないよね、エロティックな場面だったよねとガヤガヤ声があがったほど。歌詞は全然セクシーではなかった記憶ですが。 "修羅" の表現がこういう演出になったのかしら・・後で新聞やメディアの批評を読みましたが、まだ初演が始まったばかりで、各社称賛のみで今のところそれに触れた記事は見つかりません。ということで、前半の経政はエロティックに見える曖昧さも加わって、よくわからない分よけいミステリアスで凄みのあるオペラでした。尚パリでは初演でも、2016年にアムステルダムのオペラ座で、同じメンバーと演出で世界初めての初演しています。

追加: 一般論で、私は日本のお化けは西洋のお化けよりずっとずっと怖く、エロティシズムはよりエロで、バイオレンスは凄惨を極めると常々思っていました。日本はウェットで、見てはいけないものを見てしまった感じがし、それに比べて気候のせいか西洋物はドライでオープンな感覚。それが日本の映画や芸術がこちらで一際注目される1つの要因かも。そしてポエジー溢れる静寂の芸術も得意なのだから、それらがうまく混じると、こちらの人がマネのできない作品が生まれるのでしょう。

続きは "ジュリー・メシュレツ/ オンリーザサウンドリメインズの舞台" 参照

1/17/2018

カフェ・アール・サンピエール


Café Halle Saint-Pierre à Montmartre

観光客で一杯のモンマルトルのサクレクール寺院のすぐ下に、観光客はもとよりパリジャンにも知名度はいまいちなアール・サンピエールがあります。アールというとパリでは大体屋内市場、ここも1868年にBaltardバルタール式の鉄骨とガラスを使った食糧品市場として建てられ、一時学校だったことも。それが1995年より、珍しいart brut のアートセンターとして再出発しました。brutなアートとは、荒々しい、野性的というような意味。マージナル、アウトサイダーのアート、奇妙、神秘的、反逆的、何かに固執していたり時にはナイーブであったり・・・ダダともシュールレアリスムとも違うそうで、美術館の説明には "最も予期しないフォルムのクリエーション " に捧げられたアートセンターとのこと。


展示は面白い時もあるけれど、平静な気分では見ていられないようなのもあったりで、私の本当のお目当ては、実はここのカフェ、ちょっと変わった趣があるからです。外からは見えないので、ここを知っている人しか来ないこと、天井が高く真ん中に螺旋階段がデンとあり、広そうなのにテーブル数は少なくてセルフサービス、商売っ気が全然なくて素人っぽい雰囲気、すぐ品切れになってしまう軽いランチ以外はお菓子と飲み物だけ・・カウンターに並んでいる素朴なお菓子は、どれも期待を裏切らない外見通りの素朴な美味しさ。一時代前のパリのカフェ?

カフェの反対側は美術館と同じテーマ art brutをメインにアート全般のブックショップで、外では見られない本が揃っていています。この日は土曜の午後だったので、けっこうビジターが多くて、カフェも絶えずテーブルが塞がっている盛況でした。
オーディトリウム、催しのできるスペースもあり、講演会、ヴィデオ鑑賞、作家や画家のサイン会などのイヴェントも沢山

Halle Saint Pierre    2 rue Ronsard, 18e     http://www.hallesaintpierre.org/

1/11/2018

カルテルのコンポニビリ/ ADAM ブリュッセル

 

A Tribute to Componibili/ ADAM Bruxelles Design Museum

コンポニビリは、アンナ・フェリエリ・カステッリ(カルテル創業者ジュリオ・カステッリ夫人でもある)が1967年にデザインした、60年代を代表するモジュール家具。昨年でちょうど半世紀の誕生日を迎え、今なお生産販売し続けられているカルテル社のこのロングセラーは、MoMAやポンビドーセンター所蔵の美術館アイテムでもあります。50周年を記念した "コンポニビリへのオマージュ" 展が、ブリュッセルのADAMデザイン・ミュージアムで昨年9月から開催されています。

現代人の目にはなんだこれが?と思うかもしれませんね。でもモジュールな家具としては初めてのもので、鋳型に入れて作るため、職人が組み立てる必要がなく、安価であること、エリートでなく一般家庭向け、キッチンに、ベッドサイドに、バスルームに、子供部屋に、またスツールにもなる等多目的に使えること、そしてカラフルな色とコロンと可愛いフォルムが、6-70年代のライフスタイルを提供したのですから、革命的な家具だったのですね。
 
キッチン仕様、下はその当時の雑誌のページです。かわいい‼
子供の玩具入れと、グリーンのバスルーム仕様は、お化粧用でしょうか、スツールとしてタオルのクッション付き。
コンポニビリへのオマージュとして、例えばミッソーニはお得意のマルチカラーのストライプのコンポニビリ、といように有名デザイナー達が、色々なアイデアを披露していました。上は日本のNendoの作品。
用事があって最近オランダとベルギーを何度か行き来して、ついでに美術館に行っているので、この展覧会も滑り込みで見ました。コンポニビリ展は1月29日終了です。尚ADAMはポスト・モダニズムからポップアートまでのプラスティック関係のデザイン・ミュージアムとして常設展もあり、世界でもユニークな存在だそうです。

ADAM Bruxelles     Place de Belgique 1, 1020 Bruxelles http://www.adamuseum.be
ブリュッセル北部郊外の、見本市会場やアトミウムのある地区、メトロ6の終点Heysel/Heizel  下車、徒歩約10分

1/03/2018

CoBrAコブラとル・コルビュジエの関係/ アムステルダム


4e dimension: CoBrA et Le Corbusier au Cobra Museum of Modern Art/ Amsterdam

印象派、フォービズム、キュービズムその他超有名な芸術運動に隠れて、CoBrAコブラはあまり知名度が高くありませんね。コペンハーゲン(Co)、ブリュッセル(Br)、アムステルダム(A)を繋げた名で、ベネルクスや北欧の芸術家達が中心でした。改めて調べてみたら、アートをもっと自然で、西欧の概念に捉えられない自由な形で表現しようという運動で、活動期間は1948年結成-51年解散と短かったものの、後の前衛芸術を大きく変え、60年代のヒッピーやフラワーチルドレンまで影響を与えたようです。

ではル・コルビュジエ先生との関係は? 当時すでに押しも押されぬ世界的建築家だった彼の熱心な信奉者、コブラの主要メンバーの若いアスガー・ヨルンがまあある種の弟子入りしたので直接接点があること。そしてル・コルビュジエの建築はrationalism and functionalism機能主義と合理主義の極致であるとされているけれど、彼のデッサンなどのビジュアルはirrational合理的でない自由なものだ、それがコブラの活動と共通するという視点でとらえたのが、コブラ・モダンアート・ミュージアムの展覧会、ル・コルビジェ展です。

コブラとどれほど芸術的に接点が在るか否かは美術専門家に任せるとして、以前ポンビドーのル・コルビュジエ展よりもっと圧倒的に沢山のデッサン、油絵、コラージュetc.、この量と質は、建築家のホビーではないですね。
上右2点はアスガー・ヨルン、下左はカレル・アペル
ル・コルビュジエデザインのウール・タぺストリー
2階の半分はコブラの展示。カラフルな色彩の乱舞、鳥、花、月、サーカス、子供の落書き風や、筆の勢いも生々しい力溢れる絵・・理屈ではないですね、もうこれは芸術論よりその絵が好きか嫌いか。私は全部ではないけれどかなり好みでした。特にデザインとして見て、タペストリーとか大皿の絵、カーテンなどにしたらいいなと思うようなのが沢山あり。
コブラはヘビでもあるので、ヘビは美術館のトレードマーク。子供のお絵描き室の壁にはおもしろいコブラの絵が・・
これはお絵描き室にあった備品入れ。目玉がかわいくて欲しくなってしまう・・
コブラ・カフェの床にもコブラの絵。このカフェは暖かくなると、大きなテラスができるようです。
アムステルダムだから当然、運河をうまく背景にした建物。

Cobra Museum of Modern Art , Le Corbusier’s Fourth Dimension 残念ながらル・コルビュジエは1月7日で終了、私も滑り込みでした。
Sandbergplein 1,  1181 ZX Amstelveen, The Netherlands 
http://www.cobra-museum.nl/
交通: アムステルダムの郊外かなり南です。バスだと乗り換えがあるので、トラム5で行き、美術館のサイトでは終点のAmstelveen下車と書いてあったけれど、グーグルマップでは降りてから複雑そうだったので、終点1つ手前のAmstelveen, Oranjebaanから歩きました。やや遠回りですが、帰りは終点に向かったところ、ショッピングエリアを通って賑やかなのはいいけれど、2度道を聞きました。