Only the Sound Remains/ Kaija Saariaho x Philippe Jaroussky
フィンランドの作曲家カイヤ・サーリアホの新作オペラOnly the sound remainsオンリーザサウンドリメインズが上演中で、彼女の今まで一番の傑作と評判です。
日本の能 "経政" と "羽衣" をベースにした2つのお話しからなる2つのオペラですが、経政が黄泉の国と現世、人間ではない幽霊と僧侶、羽衣が天界と地上、これも人間ではない天女と漁師という、背中合わせでも共通点があり、続けて見て無理がありません。
お話自体がファンタジックな上に、歌も楽器もコンピューターを通して非現実的な音色になり、ほとんど装飾の無い舞台に光と影と登場人物の不思議な動きがとても幻想的。オペラというより、歌のあるダンス、音のある絵画、と言ってもよいくらい視覚に訴えます。ジャルスキーが幽霊と天女の声(この人はあまり動きません。彼はあまりアクターではないかも、激しく舞台で動いているシーンは見たことない)。天女の体は女性ダンサーNora Kimball-Mentzosがすばらしい! そして人間である僧侶と漁師はバリトンバスのDavóne Tinesダヴォン・タインズ、彼はすばらしいアクターで、ダンサーでもあるのかもしれない玄人はだしの身のこなし、歌だけでなく体で表現します。
フィリップ・ジャルスキーは、声(歴史に残る世紀の声だと思う)と musicalité 音楽性は最高、そして良い意味でとても頭のいい人ですね。彼のコンサートはいつも何か新しさがあって、マンネリに歌わない。今までにも少しトライアルはあったけれど、今回は本格的に近代音楽に挑戦です。全く未知のオペラでも、彼が歌うのだからきっといいに違いないと切符を買い、期待以上の公演でした。
4人のコーラスも楽器と一緒のオーケストラボックスに。右手の上はツィターのようなフィンランドの弦楽器で、琵琶の音色を表しているそうです。右端の女性の2種のフルート(1つはJ字型の多分アルトフルート)とピッコロから流れる、尺八や横笛のような音色と、左の色々な打楽器の音が、とても印象的でした。
中央の赤いスカーフがカイヤ・サーリアホ
後半の羽衣は、ライトに照らされて舞う半透明の白い衣やダンサーの動きが美しく、歌も音楽もストーリーも、お話を知らないこちらの聴衆にもすんなり理解できるオペラです。でもその分強烈な印象は薄い。ところが経政は、コスチューム全てシンプルなのに、ライトの使い方が、私にはどうしても日本式の幽霊に見え(西洋の幽霊より凄みがある) 演出のピーターセラーズは、お化けの浮世絵や怪談映画でも見て研究したのかも・・能の経政と比べてみたいと思いました。平家の滅亡、経政が一門の俊才で歌と琵琶の名手であったことなどのバックグランドは誰も知らないのですから、欧米の聴衆にはわかりずらかったかと思います。実は私も歌詞から平の経政、壇ノ浦だったか討ち死にしたこと、エンペラーからもらった琵琶等で想像はできたもののよくわからず、後で能のストーリーを読んである程度理解できました。いまだにナゾなのは、経政と僧侶のホモセクシャルとしか見えない行動! これについては休憩の時に、自然に周囲の人達から、あれは何だったのか、見間違いじゃないよね、エロティックな場面だったよねとガヤガヤ声があがったほど。歌詞は全然セクシーではなかった記憶ですが。 "修羅" の表現がこういう演出になったのかしら・・後で新聞やメディアの批評を読みましたが、まだ初演が始まったばかりで、各社称賛のみで今のところそれに触れた記事は見つかりません。ということで、前半の経政はエロティックに見える曖昧さも加わって、よくわからない分よけいミステリアスで凄みのあるオペラでした。尚パリでは初演でも、2016年にアムステルダムのオペラ座で、同じメンバーと演出で世界初めての初演しています。
追加: 一般論で、私は日本のお化けは西洋のお化けよりずっとずっと怖く、エロティシズムはよりエロで、バイオレンスは凄惨を極めると常々思っていました。日本はウェットで、見てはいけないものを見てしまった感じがし、それに比べて気候のせいか西洋物はドライでオープンな感覚。それが日本の映画や芸術がこちらで一際注目される1つの要因かも。そしてポエジー溢れる静寂の芸術も得意なのだから、それらがうまく混じると、こちらの人がマネのできない作品が生まれるのでしょう。
続きは "ジュリー・メシュレツ/ オンリーザサウンドリメインズの舞台" 参照
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