6/23/2018

ゴードン・マッタ=クラークのアナーキテクチャー


"Anarchitecte" Gordon Matta-Clark 

偶然か、それともアート界の目がそちらの方向に向いているためか、パリ(ジュ・ド・ポーム9月23日まで)と東京(国立近代美術館9月17日まで)同時にゴードン・マッタ=クラークの展覧会が開催中です。1942年生まれ、70年代にニューヨークで活躍し、35歳で亡くなってしまったのですが、今のストリートアートやアヴァンギャルド・アート、はてはソーホーで初めての芸術家グループ経営のレストランFoodを立ち上げて有名になるなど、後に続くアーティスト達の先駆者的存在だったのです。
ジュ・ド・ポームは写真美術館なので、彼の残した写真とヴィデオだけの展示。
雑多な壁紙やタイル、漆喰がボロボロになって残っている解体中の建物の壁、落書き、パリの地下などの写真が並び、彼の視線がかなり異色だったことがわかります。父親が有名な建築家でシュールレアリスト画家、父と交際のあったマックス・エルンスト、マルセル・デュシャン、イサム・ノグチなどの影響かもしれません。
                                 

彼の名を一番有名にしたのは、不要になり解体を待つ倉庫やビルを切断して作る巨大な彫刻、インスタレーションともいえる作品です。上はブロンクスの古い倉庫の壁をカットした作品 Day's End。放置されガランとした建物の薄暗い内部に、カットされた空間から入る光と影の美。


Conical Intersect円錐の交差と題された、建物の壁、床、天井を円錐形にカットしたシーリーズの作品。パリのポンピドーセンターが建設中で、その周りの取り壊し予定の建物を使って巨大な3Dの円錐形がカットされました。今ではそのプロセス、色々な角度から見た円錐のカットや、そこから覗き見える外の景色と、荒れた建物の壁や床とのコントラストを映した写真やヴィデオが残っているだけで、建物はすぐに壊されてしまいました。元々壊される運命の作品・・今ではもう実体がないのに、残された写真とヴィデオが自体が作品として展示される不思議な作品・・
 

彼はこのような手法を、自分でアナーキテクチャーと呼んでいました。アナーキーなアーキテクチャー。この造語を初めに使ったのは、ロビン・エヴァンスという建築評論家の書いたTowards Anarchitectureという本のタイトルだったそうです。このタイトル自体もル・コルビュジエの本 " 建築へ "  Vers une architectureをもじっているとか。
マッタ=クラークと仲間達の興味は、水害や事故で壊された建物を写真に撮るなど、社会問題や建築と環境、リサイクル、自然食品にも及んでいます。早世しなければどんな作品を展開し続けたのでしょうか?

Gordon Matta-Clark "Anarchitecte"  Jeu de Paume, 1 Pl. de la Concorde 8e    9月23日まで

6/10/2018

クプカ&アブストラクション&デザイン


Kupka/ Abstraction/ Design

"アブストラクションのパイオニア" というタイトルで、フランティセック・クプカの大回顧展がグラン・パレで開催中。なぜパイオニアかというと、美術史上、彼は最も早く抽象的な絵を描き始めた画家の一人だったのだそうです。順を追って作品を見てゆくと、画風がどんどん進化してゆき、画家の頭の中で、抽象絵画がどんなプロセスで生まれるかを、ちょっぴり覗いて見られるような展示でした。

抽象画家は、若い頃クラッシックな正統派の具象から出発していてびっくりさせられることがありますが、クプカの場合は違います。初期の画風はあくまで古典的でも、北欧風に感じられる(ボヘミヤ生まれなので東欧的と言うべきか?)幻想的、神秘的、象徴的作品が大多数。初めから目に見えた物でなく、心の中で想像した物を描いていたのですね。
上の若い女性の背景は、後のジオメトリーを彷彿とさせます。
上はクリムト風です。これがもっと発展すると、下のような抽象に?
下の4作品は、どのように抽象画が生まれるか、分かりやすい例として展示されていました。
             
            
1930年代からは徹底したアブストラクション。

どんどん単純化され、余計な線が削除され、最後は下写真のような、絵画というよりはデザイン、グラフィズムと言った方がいいような作品を残しました。これ、いいですね~色々なデザインに盗みたくなる絵!

クプカってグラフィック・デザインの元祖ではないかと思いながら展覧会を見ていた私は、帰りがけに売店の前でハタと立ち止まりました。美術館も同じことを考えたのでしょうね、クプカをテキスタイルのデザインに使ったポーチやトートバッグを売っていました!!
フックとトートのコーディネーションがとてもステキ・・

注: ここに取り上げた作品は私の好きなものばかりです。クプカがパリに来てから描いた幻想的かつ皮肉で残酷なまでの挿絵やポスター、また後期の派手な色使いの、無限の宇宙や色彩の洪水のようなアブストラクションのシリーズなどは、好みでなかったので省略しました。
Kupka, Pionnier de l'abstraction    3, avenue du Général Eisenhower 8e 7月30日まで

6/03/2018

シャルドンのパン


Boulangerie Chardon aux Grands Voisins 

元病院の敷地に、次の建物が立つまでの間パリ市が若者たちに解放して出来上がったコミュニティー・マルチスペース、レグランヴォアザンに、去年夏から仲間入りしたブーランジュリー・シャルドン。シャルドンとは " あざみ " の事。厳選した本物の素材を使い、手で捏ねたこだわりのパンは、野原や田舎のあぜ道にしっかりと根を張ったあざみのように素朴な味。
今日は上の写真の黒いパン、そば粉100%のものを初めて買ってきました。ねっとりというか少々モチモチ感があり、それだけ食べても美味。チーズと一緒は最高!

奧の黒くて丸いパンはライ麦100%。モチモチ感はなく、ドライな素晴らしい風味。

装飾も何もなく、アトリエと素材の粉置き場も兼ねた店内は、本来の " パン屋  " のあるべき姿かもしれませんね。若いシェフと、あまりプロっぽくない親切な売り子さんにも好感が持てます。

Boulangerie Chardon, Les Grands Voisins 74 Av. Denfert-Rochereau 14e