6/21/2019

カルダー/ ワイヤーで作られたポエム


Calder/ un poéme métalique

カルダーというと= モビール.....一見単純そうですが、それは針金で作られ、ゆっくりと動く立体絵画なのです。ピカソ美術館で開催中のカルダーxピカソ展は、この2人の巨匠の接点がテーマ。美術館のアナライズにると、それを一言で表現するならば "空間" の追及だという発想。

『全ての物は、その物の存在する空間の中を、外の物との関係を保ちながら動きまわり、揺れ、行ったり来たりする。どんなに一瞬であっても、そのバリエーションは自然の法則なのだ。カルダー』
『肖像を描こうとして、ピュアなフォルムを見つけようと余計な物を省いてゆくと、必然的に卵に到達する。そして卵から逆の方向に道を辿ると、肖像に行きあたる。しかしアートは,そんなに単純に両極端を行ったり来たりするものではない。ちょうどいい時に止まらなければいけない。ピカソ』 以上は会場を入ってすぐの部屋のパネルにあった言葉。

カルダーの言葉をズバリ表現したような小作品
下はジョセフィン・ベーカーのポートレート。天井から下げられたモビールで、手足顔など要所も固定されずに動くので、表情や動作が微妙に変わります。
ジョセフィン・ベーカーは殆ど平面的ですが、こちらの肖像は完全に3Dで、針金の彫刻と言えます。ゆっくり揺れながら、少しずつ全く違った表情に変化。
 

実は私が一番ハッとさせられたのはこれらの作品でなく、別の機会でしたが見ることのできたカルダーのヴィデオでした。アメリカからパリにやってきたカルダーは、アーティスト仲間の前で、彼らの肖像や小さな動物をワイヤーで、まるで曲芸のように即興で作り始めるのです。動く絵・・それらは仲間の間で大人気になり、どんどん発展してサーカスが出来上がります。写真が少ないために素晴らしさをお見せできないのが残念ですが、どれも素朴で詩情あふれる愉快なサーカスのメンバー、しかも正確に動き、曲芸を披露します。彼にとっては、動くオブジェは尽きない興味の対象、きらめくモビールのパーツを、平衡を保ちながら下げてゆく老カルダーの表情は、小さな子供が新しいおもちゃを動かしてみている表情と全く同じでした。
                     by Marie Claire Idée
                          by Madame Figaro                                                 

サーカスを見た後は、カルダーのモビールを見る目が変わってしまいました。

ピカソはというと、彼もワイヤーやメタルを使って彫刻を沢山作っていますし、彼の単純な線画の肖像はハッとするほどカルダーとの共通点が大きい。2人を並べて展示するのは面白いアイデアです。
尚、ピカソ美術館の庭も素敵なので、お天気のよい日はぜひゆっくりしましょう。

Musée Picasso  5 rue de Thorigny 3e    8月25日まで

6/09/2019

プチ・二コラは60才/ サンペ


Petit Nicolas a 60 ans

ニコラはフランスでごく平凡な名前ですけど、もし連想ゲームをやったら、フランス人は真っ先に "ワイン" 又は "サンペ" と答えるはず。二コラはフランスで最もポピュラーなワインのチェーン店、サンペはフランスでタンタンと並ぶ人気のキャラクター、プチ・ニコラの生みの親のイラストレーターなのです。因みにサンペは自分の作り出した男の子に、このワインショップの名前を付けたのだとか…
今年は1959年にこの二コラが誕生して60年めになります。


プチニコラのデッサンを書き、名前を決めたのはサンペですが、どうしてもうまくストーリーが考え出せず・・そこでゴシニーの助けを得て、まず新聞社が要望したマンガとして世に出します。しかしサンペはマンガが嫌いな上に、この枠にはまったスペースにどうしても馴染めず。それが1959年、Sud Wuest Dimanche誌にイラスト付きのお話として連載されることになり、大成功をおさめました。


ゴシニーの文章とサンペのデッサンは、子供が本当の子供でいられた時代、子供が大人とは違う世界を持っていられた時代を、ポエジーとユーモアたっぷりに描き出します。ママン達の中で一番chouette(素敵の俗語)なママンは、いつもエプロンをしてキッチンに、パパは ソファーで新聞を読む・・(フェミニストがヒステリーを起こしそうな)平和な世界。
1964年までに5冊のお話が出版され大人気でしたが、ストーリーが繰り返しになってきたとサンペはゴシニーにお話しの打ち切りを申し出ます。たしかに子供たちの世界は、犯罪も政治も入り込まない、学校ー家-たまのバカンスだけの単純な世界で、そこがこのお話の魅力でもあるのですが、5冊読むと新しさはなくなりちょっぴりマンネリに。成功したストーリーを展開し続けるのは楽でしかも儲かる事は、映画や本がナントカ1,2,3と続くのでも証明済み。ここで儲け主義に走って、無理に面白い話を付け加えてダラダラ続けなかったのがサンペの偉いところ。
以後ゴシニーは、これまた大ヒットのカウボーイ、ラッキーリュークや、石器時代を舞台にしたアステリックスなどの超ヒットのマンガのライターとして大活躍し、サンペは、一部手描きの吹き出し以外はイラストのみの大人の絵本を沢山出版します。

私が一番好きなのは上写真のマルセラン・カイユー(日本では "マルセランとルネ" というタイトルのようです)。素晴らしい! イラストとかマンガと侮ってはいけません、これは "ポエム" です・・・
サンペらしいユーモアたっぷりのデッサンやポスターも数限りなく・・

日本でプチニコラはどれくらい知名度があるのかわかりません。タンタンの方が知られているのでしょうか? まだ読んだことがない方はぜひ一読を! なんとなく口元がほころんでしまい、ほのぼのする事請け合いです。