11/03/2019

ピエール・スーラージュとスーラージュ美術館/ ロデス

 
        
Pierre Soulages et Musée Soulages à Rodez

以前からスーラージュの絵を目にするたびに、もっと沢山見たいものだと思っていました。万聖節の休暇にチャンスがあり、念願叶って彼の故郷ロデスのスーラージュ美術館に行ってきました。Rodezロデスはパリの南西部、奥深い田舎アヴェイロン県の中心都市です。中心といっても日本の県庁所在地の規模と賑やかさは程遠く、パリから直行の鉄道が無いので、片道乗り換えを含めて8時間近くかかりました。(因みにパリからブリュッセルは1時間ちょっと、ロンドンだって2-3時間)

さて期待のスーラージュ美術館は、素晴らしくて感動! 器も中身も完璧。
彼は黒の画家と呼ばれているそうですが、誤解を招きそう。私は光の画家と呼びたい。黒を沢山使っているけれど、それはより白を、光を、輝かせるため・・



上写真は大きな絵のほんの1部分だけを撮ったもの。キャンバスの表面の暗い絵の具の後ろには、眩しいような光が満ち満ちている!

リトグラフィー、セリグラフィーやポスター等の小品は、黒にアクセントのカラーがドキッとするほどパワフルで、素晴らしいグラフィック。

      
           
パリに帰ってから彼に関する記事を色々読んでいたら、ラジオFrance Cultureのインタビューを見つけました。ちょっと古い2011年のものですが、以下『』部分がその要点です。

『多分私が4-5才の時のことです、白い紙の上に黒の太い線を描いていたのだそうです。何を描いているのと聞かれて、雪だと答えた。その時周りの大人はみな笑ったそうですが、全員がそれを覚えていて、後になって私にその話をしてくれました。今思うと、黒い線とのコントラストで、紙の白さを雪のようにより白くしていたのですね。』

2011年インタビューの時スーラージュは92才。彼は自分がすでにやった事を見るのは好きではないと言います。『自分の知っている事だけを繰り返すようになると、アーティスト(芸術家)ではなくアーティザン(職人)になってしまいます。芸術家は自分のできない事、知らない事に注目しなければなりません。』 90才にしてなんという気迫!
ということで、最後に彼の絵は真っ黒になります。

ピカソが、顔の不要な物を取り去り重要な物だけ残したら卵になった、と言ったように、光を追求し続けたら真っ黒になってしまったのです。このあたりが私のような凡人ががっかりしてしまう、真に才能ある芸術家によくある現象で、せっかく素晴らしい絵を描いていたのに、なんでそこまで、と思うのですが・・・仕方がない、前進あるのみ! 写真では見えませんが、これらの一見真っ黒な色は、つや消しの表面と光沢の表面、凹凸、コラージュで別の紙を貼ったりと微妙なニュアンスの違いがあるのです。

『私の絵で、光は、全く光の無い所から輝きます。つまり黒です。黒は光を全て飲み込んでしまう色です・・でも本当は全部ではありません。黒の表面の状態によっては、光を映し出すということに、ずっと後になって気が付きました。』

スーラージュは黒だけでなく、木の塗料brou de noixクルミのエキスを使った作品を沢山残し、若い頃は、このクルミ塗料ばかり使った時期がありました。そのためスーラージュと、クルミ液のやや赤みのある黄土色、薄茶、黒に近いこげ茶は切り離せません。才能ある建築家チーム Passelac & Roquesによって2014年に建てられたこの美術館は、外部に鋼版を使い、それが自然に錆びた色はこのクルミ液の色を思わせます。もちろんそれを狙って選んだ素材。数個の直方体を組み合わせた形も作品のイメージ、建物自体がスーラージュの作品とぴたり呼応し、そのハーモニーは見事です。内部は錆びの無い、照明や窓からの弱い光で微妙な色に変わる鈍い灰色の鋼板の床、壁に、黒、グレイ、少々の赤茶のみ。多分スーラージュ氏の上品な好みそのもの、そしてフランスのグッド・テイストの真髄のようなシンプルで極上の内部。相当お金がかかったでしょうね・・作品を鑑賞中も、あまりに建物も美しくて、最高の贅沢な気分でした。 こんな田舎(失礼!)にこんな美術館とは、フランス人が時たま見せる粋な閃きですね。

 Musée Soulages     Jardin du Foirail, Avenue Victor Hugo, 12000 Rodez

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