7/26/2021

ファルスタッフ/ エクスアンプロヴァンス音楽祭 No.2

Falstaff/ Festival d'Aix-en-Provence No.2

エクスアンプロヴァンス音楽祭の次のオペラはファルスタッフでした。ヴェルディのオペラ中で、ラ・トラヴィアータ等と比べると、上演されることがぐっと少ないオペラで、ずっと以前に一度見たきりの印象は、太った、エリザベス朝の重い衣装の歌手達の、ドタバタ喜劇という芳しくないものでした。

結論から書くと、今回のファルスタッフは、私の一番のお目当て、ファルスタッフ役のクリストファー・パーヴェスはトップ中のトップのパフォーマンス、バリー・コスキーの演出も控えめでいながら色使いとデザインが美しく印象的、外の歌手陣も文句のつけようが無い最高で、素晴らしいソワレでした。

   by Festival d'Aix-en Provence
幕開きの第一番目のガーター亭のシーン。ファルスタッフは料理しながら、それこそ舞台狭しと踊り、走り、歌いまくり、もうここで観客は釘付けに。ファルスタッフがエプロンの下に着ているのは、タンクトップだけ・・・ホントにそれだけ・・ということは、時々チラッと、ちょっぴり意味深ぽく後ろ向きになると、お尻がちらり、ちらり・・
なぜファルスタッフが料理しているか、なぜズボンをはいてないか、理由付けなど必要ない! ファルスタッフと従者達の掛け合いは、面白くて歌も最高、理屈無しに大喜びです。

   by Festival d'Aix-en Provence
パリー・コスキーの演出は、まるでリバティープリントのパッチワークの華やかさ。女性達の衣装がポイントカラーになって、ボンボンをまき散らした感じ、でも余計な物が置いてない広い舞台は、スッキリとシックです。特にアリス・フォードの赤とフシアのドレスが素晴らしい色の効果。アリス役のCarmen Giannattasioは、以前コンサートヴァージョンのマリア・ストゥアルダのエリザベッタ役でスゴイと思ったのですが、嫉妬し怒り狂う冷徹なイギリス女王とは打って変わって、今回は声も立ち居振る舞いも品でコケティッシュな大人の女を演じ、大ファンになりました。
   by Festival d'Aix-en Provence
ラストの森の中の場面は、急に変わって全部ブラック。それまでのカラーとのコントラスト。

ヴェルディが生涯最後に作曲し、また彼の唯一の喜劇であるこのオペラは、みんなに吊るしあげられたファルスタッフの言葉で終わります。
『世の中みんなジョークさ、人間は道化なんだ』

ヘンデルのオラトリオ "サウル" / バリー・コスキーの演出

7/15/2021

フィガロの結婚/ エクス・アン・プロヴァンス音楽祭 No.1

 

Les Noces de Figaro/ Festival d'Aix-en-Provence

フランスは5-6月ずーっと、北3分の2は気温が上がらず大雨や洪水も度々、それなのに地中海側はカラカラ天気が続いていました。それで雨のパリを脱出して、太陽を求めてプロヴァンスに行こうと思い立ちました。でもどこへ? ちょっと閃いて、エクス・アン・プロヴァンス音楽祭の予約状況をチェックしてみたら、オォ! 安めの切符がまだ少し残っています。宿泊の方もリーズナブル価格のが見つかりました。Covidのせいで国外からのツーリストが少なく、直前にこんな奇跡的な事もあり得るのですね~! エックスの音楽祭は、新しく若々しい演出が多くて、一度見たいと思っていた念願が叶い、フィガロの結婚とファルスタッフ、2晩続けて楽しみました。上演はアルシュヴェシェ劇場(元大司教館の中庭)なので、屋外というのもCovid禍には好都合。

これが入り口前。ここにたどり着くには切符と所持品のセキュリティーチェック、PCR検査の陰性、又はワクチン2回終了、又は感染して完治した、のいずれかのCovid証明を見せてやっと入れるのです。開始は21:30からで、ゆっくり夕食してから来られるようにとの配慮でしょうね、プロヴァンスの夏の贅沢な時間の使い方・・・時計を見なかったのですが、フィガロのカーテンコールが終わったのは、多分夜中の1時くらい。


これが開幕前の舞台。序曲はこの状態で始まり、モーツアルトの時代風のコスチュームとコメディア・デル・アルテがミックスして、無言の俳優達がコミックな動作で、ベッドを中心に超スピードで動き回ります。序曲にぴったりマッチしたパントマイムか踊りのようで、これだけ独立してもとても楽しいパフォーマンス。このオープニングで、すっかり愉快な気分に。 
幕が上がると舞台は左に伯爵夫妻の寝室、右にサロン、その間にあるのが洗濯機やアイロン、汚れ物の袋などがある洗濯室と、3つの部分に区切られています。特にこの平凡な電化製品達が演出のキーポイントで、ケルビーノが中に入ったまま洗濯機が回りだしたりと、とてもコミック。演出は以前このブログで取り上げたアイーダの演出家ロッテ・ド・ベール。歌手達が若く、動きが早く、軽く、皆がはまり役のスタイルな事もあって、ちょっとドタバタが、紙一重でイヤミになりません。

            by Festival d'Aix-en Provence
全員、オペラ歌手はイコール素晴らしい俳優である事を証明する演技。あんなに動きながら、なにげなくモーツァルトのアリアを歌ってしまって、すごい!! 
演出のド・ベール嬢は、セクシーな観点からのフェミニズムをメインテーマに、地位を笠に着て好き放題に好色な伯爵、見捨てられた伯爵夫人、すっぱ抜きのスキャンダル #me too 風で、終始男性性器がやりすぎ気味に登場します。でもロッテ・ド・ベールのさじ加減が適切なのか、歌手の品格と演技力のおかげか、下品にならず、大笑いの場面もあったり・・・私の大好きな若手メゾソプラノ、ケルビーノ役のレア・デサンドル(写真上)は、歌も演技も最高。ちょっと同情してしまうくらい、セックス・ギャグを演じなくてはならないのに、かわいい !! 太った大歌手には不可能なパフォーマンスです。

   by Festival d'Aix-en Provence
   by Festival d'Aix-en Provence
ボーマルシェの原作には副題があってLa Folle Journée, ou le Mariage de Figaro 日本訳『狂おしき一日、又はフィガロの結婚』。この狂おしき、はちょっと古風過ぎて、例えば "狂った一日" くらいが適当な気がしますが、ロッテ・ド・ベールの演出は、文字通り狂った一日です。でも休憩後の後半は、私はいまいち。アイロンや洗濯機と同様、女性を意味するつもりらしい編み物(不満 !! )、ニットが登場し、最後は全員が編み物に専念するのです。これは説得力がないから笑えない、つまらない。写真の巨大な、二ットの木かお化けは、空気で膨らんでパフォーマンスとしては面白いのですが、演出家が何を言いたいか、残念ながら私にはよくわかりませんでした。

上は休憩の時に、舞台側から撮った写真。アルシュヴェシェ劇場に隣接のサンソーヴェール大聖堂の塔がちょっぴり見えました。

尚このフィガロは、嬉しい事にArte.tvで、2022年1月8日まで、好きなだけヴィデオで見ることができます。

関連ブログ : 観客のいないアイーダ

7/05/2021

サンジャック通りのブーランジュリー


Boulangerie Bruno Solques

サンジャック通りのパン屋さんブルーノ・ソルケスは、注意していないと通りすぎてしまいそうな、とても小さなお店です。けれどもウインドーの外に赤いキノコやハリネズミ、アヒルの飾りが並んでいて、何のお店だろうとちょっと立ち止まってしまいます。そしてガラス越しに無造作に積まれたパン菓子を見れば、どうしても中に入ってみたくなるお店です。

 

まずお菓子の乗っているこのお皿。どっしり重そうな、田舎風の味のある大皿たち。並んでいるタルトやヴィエノワズリ(パン菓子)も、小ぶりだけれど存在感のある、不揃いな手捻りの素焼きの様な風合い。

そして中に入ってびっくりするのは、このデンと並んだ素焼きの動物の頭 !  お店は古い建物なので、天井が低く、今ではめったに見ないような古風な田舎風の壁紙、そして壁いっぱいに陶器の動物達・・・。パリで一番ユニークなブーランジュリーではないかしら?
ご主人に聞いたところ、この動物達は彼の作品だそうです。因みにご主人は特別奇怪な人物でもなく、ただとてもとても(!!)ユニークな方だという感じです。


お菓子は大きさがまちまちだったり、多少崩れたりいびつだったりすることも・・多分そんな些細な事はどうでもいいとのご主人の判断に違いない !  でもお味はバツグンで素朴な風味。パンの紙袋にもロバの頭の陶器の写真が・・
ごつごつの岩のようなパン。噛めば噛むほど味わい深い・・・きっとご主人は陶器造りと同じような感覚でパンを焼いているのでは? そういえばどちらも " 焼 " ますね・・

パン屋さんがまず閉まっているはずのない曜日や時間帯に、なぜか閉店のことがよくあります。閉店日の表示もありません。それもとてもユニーク。

Boulangerie Bruno Solques     243 Rue Saint-Jacques 5e