1/26/2016

カリフラワー・アパート/ ジェラール・グランヴァル


Maison-fleur ou les choux de Gérard Grandval à Créteil
 
いったいこれは何? 古いSF映画? 60-70年代の亡霊のような驚くべきこのアパートは、メトロ8号線の終点近く、でもパリからすぐのクレテイユという郊外の町にあります。ジェラール・グランヴァルGérard Grandvalという建築家によって1969-1973年に建てられ、もちろん今も人が住んでいます。テラスが花びらのように見えるのでメゾン・フラール(フラワーハウス)と呼ばれたり、キャベツ、カリフラワー、トウモロコシ、ダリアなどと色々な名前で呼ばれましたが、最近はキャベツ(レ・シュー)に落ち着いているようです。
ジェラール・グランヴァルは単純で安上がりな四角い建築を嫌い、リズムがあって、貝や繭の様に人を包み込む、アンチ・キューブ、アンチ・ファンクショナルな建築を提唱し、丸いカプセル型のワーキングスペースなどを設計しましたが、なんといってもこのカリフラワーが彼の代表作。単純化した植物風の曲線は独特の美しさがあります。建築当時は世界中で話題になり、しかしパリジャンからはスキャンダル視されたそうで、即入居希望はたったの7世帯だったとか。フランス人は保守的だから・・今から40年前ですし・・
周りは芝生の公園で、カリフラワーのすぐ下には、スーパー、幼稚園、小学校が
包み込むようなテラスには、どこからも見られることなく、外界と遮断されたプライバシーが。ジェラール・グランヴァルは、壁にヴィーニュ・ヴィエルジュ(秋に色づく蔦の一種)を這わせて花びら型のテラスを植物で覆うつもりだったそうです。今では植物の壁などどこにでもありますが、当時としては画期的なナチュラル志向のアイデアだったのでしょう。しかし管理組合から、壁の傷みや虫の問題でストップがかかったのだそうです。
1棟だけ低い建物があり、それを中心に15階建ての10棟が囲んでいます。各棟の階下にはパーキングがあり、シリンダーの階上の中央部には緑のある空中の中庭があるようです。
 いくつか違った入り口がありましたが、多分このデザインがオリジナルだと思います

至れり尽くせりに完備しているのに、畑しかなかった郊外に人工的に作られた団地群、交通量の多い国道が交差するなど、このようなSF風の近代都市はフランス人の富裕層の好みではなく、一時はだいぶ荒れ、2000年頃から国が介入して美化を進め美しく蘇りました。最近のヴィンテージブームとパリ中心の地価が高くなりすぎた事からも、今では入居希望者は沢山いるのでしょう。でも本当に住むとなるとかなり勇気が要りそう。
尚花びらのようなテラスをきれにするに当たっては、洗浄会社は特別なナセルを開発しなければならなかったそうです。
国道を隔てた向こう側には人造湖
Les Choux    Créteil, Val-de-Marne

1/20/2016

アンティークショップ、アン・サンジュ・アン・イヴェール


Un singe en hiver à Clignancourt


アン・サンジュ・アン・イヴェール ″冬のサル″ というおかしな名前のアンティークショップが、蚤の市クリニャンクールのポール・ヴェール通りにあります。古い一軒家とその中庭をショップにしたムードのある店内。正統派のアンティークに加えて、独特のテイストの室内やガーデン用インテリアのセレクションがとても素敵で、クリニャンクールに行ったら必ず入ってみる、私のお気に入りの場所の一つです。

中庭の大テーブルの上には、装飾用(洋服かけにもなる)のシカの角が・・
 
中庭に続く通路の両側には、面白いものが一杯。クラッシックな本物アンティークと、硬くワイルドなイメージの異なるヴィンテージをミックスするのが好きな人にぴったりの品揃え。
温室風のガラス張りのサロン

どうして ″冬のサル″ という名前になったのかはわかりませんが、調べたら1962年に、ジャン・ギャバンとJP・ベルモンド共演で、ズパリこの名前の映画がありました・・・オーナーがファンなのかも・・

Un singe en hiver       6 rue Paul Bert, Saint-ouen 93400

1/16/2016

ジャズのヴィンテージレコードカバー

アンディー・ウォーフォール
Le graphisme de la disque de jazz

パリ市の図書館には、本と一緒にCDやヴィデオの貸し出しをしている所が沢山ありますが、中でもレ・アールにあるメディアテックは、音響関係専門で膨大なコレクションを持つユニークな図書館です。昨日行ったら、コレクションの中から、1950-70年くらいの古いジャズのレコードカバーを幾つか展示してありました。どれもステキなデザインで、その当時の有名なグラフフィックデザイナーの作品です。アンディー・ウォーフォール、ニクラス・トロクスラー、リード・マイルスなどの名前が出ていました。後者2人は、ジャズに関するもののデザインで有名だそうです。

これもウォーホール
The minimalism of Erick Satieという、タイトルだけでもとってもオシャレなレコード。なんだかヴィンテージのレコードを集めたくなってきました。実は家に昔のレコードプレヤーがあって、蚤の市で買った数枚の古いレコードを時々聴いています。現代のCDにない古びたいい音色に、何かほっとくつろぎを感じます。特にジャズやブルースにしっくりマッチする音色。カバーのデザインも、CDでは小さすぎて面白味に欠けるのに、  ステキなグラフィックのLPは、りっぱなアートですね。

                                                                   


メディアテックの方によると、このような古いレコードや貴重な資料が沢山あり、また個人のコレクターからの寄贈もあるそうです(何千点という単位で、XXコレクションと寄贈者の名前が付いたストックがあるそう・・)。もっと本格的な展覧会をやってもらいたいものです。

Médiathèque Musicale de Paris,    8 Porte Saint-Eustache, Forume des Halles 1e

1/11/2016

ノートルダム・ド・ラ・サジェス教会

Chapelle Notre-Dame-de-la-Sagesse

パリの東の端に位置する13区のセーヌ河岸は、オーステルリッツ駅後ろの操車場沿いの、元工場や倉庫が並んでいた地区の再開発が進んでいます。フランソワ・ミッテラン図書館の近代的な4つの塔がそびえ、医学部や建築学部の新校舎が建ち、大通りに映画館やザラなどのチェーン店や並び全く新しい地区。ノートルダム・ド・ラ・サジェスは、その近代的なアパートに囲まれた緑の公園をバックに、パリで、20世紀最後(1998-2000年建築)に建てられた教会です。
周囲の建物と全く異なるレンガの壁が、ちょっとレトロ。
写真上は祭壇正面。写真ではなぜか大く見えても、内部はとても小さく、祭壇を中央に参列者のベンチは右側だけで、左側は洗礼用の水盤のある祭儀用のスペースになっています。コンクリートの壁、切られた壁や窓から外の光が差し込み・・・どこかで見たなぁ・・そう、安藤忠雄さんの光の教会と同じアイデア、真似と言われてもしょうがないくらい。2人の建築家ピエールルイ・ファロシとセドリック・フェネロンによると、これはル・コルビュジエのロンシャンへのオマージュのデザインなのだそうです。そういえば安藤さんも、ロンシャンに感動してデザインしているのですから、元祖はル・コルビュジエ先生。何事も、初めに思いつくのが難しいのです。
洗礼の水盤がある側は、外の緑と壁に沿った水槽が見える大きなガラス窓。
個人的には真似でも構わない、このようなシンプルなデザインは大好きなので、クラッシックな教会ばかりのパリで意外な発見でした。色々な催しを小さいわりに活発にをやっているようで、15日にバッハのカンタータのコンサートがあり、夜の照明も見たいので行ってみます。

Chapelle Notre-Dame-de-la-Sagesse      Rue Abel Gance 13e  

1/06/2016

女カメラマンなんてこわくない1839-1919


Qui a peur des femmes photographes 1839 à 1919 au Musée de l'Orangerie

お正月のお休みに、オランジェリー美術館の ″女カメラマンなんかこわくないパート1″ 展に行ってきました。これはカメラの発明された初期から第一次大戦までの1839-1919年の女性カメラマンの作品を集めたのもので、第一次から第二次大戦まで1918-1945年のオルセー美術館でのパート2が後に続く2本立ての展覧会です。

まずなぜ女性なのか? 彫刻、絵画などの芸術が、一部例外を除いてずっと男性の専売特許だったのに反して、メカニックなので男っぽい印象を受けるカメラは、実は発明当時、優雅なレディーに相応しい新しい趣味としてイギリスでブームになったのだそうです。ヴィクトリア女王、アレクサンドラ王女が熱心なカメラファンだったのもブームに拍車をかけました。女性のたしなみとして水彩画がイギリスで発展したのと同じ理由で、花、風景、家族や家庭のひとコマを写真に撮り、自分で現像し、美しいアルバムを作ることが流行ったのです。

ごく最初の写真は、サロンに座る家族の写真などクラッシックなものや、手描きの水彩やデッサンに写真をコラージュするなど、ハンカチに美しい刺繍をするのと同じ感覚で、美しいアルバムを作るセンスの良さが競われたようです。このコラージュ、沢山ありませんでしたが、とても美しいので必見。撮影禁止だったのが残念です。ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館所蔵が多いようなので、ぜひ見に行かなければ!
しかし1850-60年頃、彼女たちの中から、色々なテクニックや被写体を演出して、個性的な写真を撮る女性が沢山現れます。上の写真はLady Clementina Hawardenの作品。彼女はヴィクトリアの夫プリンス・アルバート が開いたロンドン写真協会The photographic society of Londonの女性会員に選ばれ、展覧会を開いたり賞をもらったりしています。壁やドレスに映る光と影が素晴らしく(本物は比べ物にならないくらいもっとステキ)、また写真の淵をジグザグに切ったり、手で千切ったりがとても斬新でハッとさせられました。
          
上2点はJulia Margaret Cameronの作品。彼女はぼかしのテクニックと、アレゴリックなコスチュームやポーズで演出し、神話や聖書の場面を思わせる写真を好みました。ヴェージニア・ウルフは何度も被写体になった彼女のお気に入りの姪の娘にあたります。ウルフの写真(上左)はこの展覧会のポスターにも使われ、プロフィールと影が楕円に切られて、カメオのブローチのよう。また展覧会のタイトルも ″ヴァージニアウルフなんてこわくない″ をもじって ″女カメラマンなんてこわくない″ なのです。

演出されたシーンの撮影は、お堅いヴィクトリア時代に、ちょっぴり危ういヌードっぽいシーンを撮る口実にもなったようです。でも完全なヌードはまだほとんどありません。また女性カメラマンは沢山のポートレートをプロ並みに撮り、中には有名人の写真も沢山あるのに、本当のプロとして自分のアトリエを持って仕事をしたのは、展示の中ではフランスのGeneviève Elisabeth Disdériだけで例外。

20世紀に入ると、女性の選挙権を求める運動などが始まり、デモなど記念すべきイベントの撮影には女性カメラマンが活躍し、また第一次世界大戦が始まると、従軍看護婦達が戦線の写真を撮るなど、女性フォトジャーナリズムの幕開けでパート1は終わります。
久しぶりにオランジュリー美術館に行ったので、売店をのぞいてみました。本のコーナーは広くないのに、芸術一般、音楽、映画関係に加えて、展覧会の内容とマッチした女性カメラマンについての本はもとより、女権運動に関する面白そうな本までセレクションされていました。
Qui a peur des femmes photographes 1839-1919 Musée de l'Orangerie  1月24日まで