8/31/2019

リナ・ボ=バルディの椅子/ 女性建築家 No.1


Tabouret en bois de LinaBo Bardi/ Les femmes architectes 

今トロカデロの建築文化財遺産博物館で、建築家達のデザインしたファーニチャー展が開催中です。その中で3人の女性建築家の作品が目につきました。今日はまず一番嬉しい発見だったリナ・ボ=バルディについてです。
以前オスロでリナ・ボ=バルディ(LBB)(1914-1992年)のビードロ・ハウス(ガラスの家)の展覧会を見てから、もっと彼女の作品を見てみたいと思っていました。活躍した場がブラジルと遠く、沢山の建築物を残さなかったので派手なイメージは全くありませんが、その道の専門家の建築家達が、ブラジルに行ったらぜひ見たいと思うのが彼女の作品なのだそうです!


LBBはローマに生まれ、建築科卒業後ジオ・ポンティの下で働きます。1946年に美術評論家でディーラーでもあるピエトロマリア・バルディと結婚し、可能性を求めて、ピエトロの持っていたストック全部を持って戦後の新しいブラジルに移住。サンパウロで開いた現代イタリア絵画展が大成功し、そこで彼らはオスカー・ニューメイヤー、ルチオ・コスタ、また営利目的無しの美術館を開きたいと大志を抱いていた富豪アシス・シャトーブリアンと知り合い、1948年サンパウロ美術館が誕生。リナが担当したこの建築は彼女の傑作の1つに、またピエトロは1996年までこの美術館のアートディレクターとして活躍。なんだか夢のようなストーリーですけど、全部事実。

展示されていたのは、彼女のファ―ニチャーの代表作の "キリン" と、サンパウロの小さなチャペルの椅子。どちらも究極のシンプルなデザインです。

写真上がLBBの設計したチャペル、サンタ・マリア・ドス・アンジョスのスツール。サンパウロから約50㎞の田舎に建つこの小さなチャペルは、質素なコンクリートの箱の様。中央入り口の壁面が台形で、ちょうどスツールの座る部分の形と同じなのは偶然? 因みにこのスツールはたった15点しか残っていない貴重品とか!
                                                                   

こちらはキリン椅子。これもシンプルな形からは想像もつかない優れものです。2本の前足は垂直、1本の後ろ脚はやや外側に斜めと、安定感も最高。しかもユーモアたっぷりでかわいいですね。


こちらは展示のなかった代表作のボールチェアー。金属の足にボールを乗せただけのデザイン。これもポップで座り心地満点そうです。しかも素材やカラーの組み合わせが無限で楽しそう。
サンパウロ美術館1968年: 大きな高速道路がぴったりと横を走り、それと立体クロスする高速の地下トンネルが崖下に黒々と見える厳しい場所を利用しています。当時画期的だった展示方法は、透明ガラスに絵を挟んで展示する方法。絵とビジターの距離が狭まり、ビジターが後ろに回れば、作品の後ろを見ることができるものです。(オスロのブログ参照
By Le Monde
SESCポンペイア・スポーツ文化センター1977年: 古い工場を利用した市民のためのセンター。この工場跡を最初に視察した時、子供が沢山周りで遊んでいたのを見て、子供達からこれを取り上げるような施設を作ってはいけないと思ったとか・・
           LBBの自宅ビードロ・ハウス1951年

Le Mobilier d'architects 1960-2020    9月30日まで
Cité de L'architecture & du Patrimoine,  1 pl.du Trocadéro 16e

8/22/2019

緑の島 L'Ile Verte /ジャン・フォ-トリエのアトリエ


L'Ile verte, l'atelier de Jean Fautrier / La vallée aux Loups

8月初めに書いたパリ郊外 "オオカミの谷" の続きです。
オオカミ谷はシャトーブリアンの館と森、そして3百年前から今日に続く植物の栽培で名高いクルー家の土地を利用した広大な樹木園Arboretumが見どころですが、そのほかにもう一つ、生い茂る木々に隠されたとっておきの場所があるのです。リル・ヴェルトL'Ile verte "緑の島" 、雑多な外の世界と切り離されたような、文字通りの美しい緑の島です。


"緑の島" は画家ジャン・フォートリエの家の名です。これが入り口。赤い屋根の家は門番小屋か何かで、フォートリエの家ではありません。入ると目の前にすぐ池があります。 

上の写真は池から入り口の門番小屋方向を撮ったもの。
故意なのか、半野生の草木が一見勝手気ままに生い茂るこの池は、いつ行っても心が洗われるようです。この池越しにフォートリエの家が、緑の島の中に建つように見えます・・実は地続きで島ではありませんが。ブログトップの写真参照! 

この家を寄贈されたオードセーヌ県に、徹底的な修復をする予算がないためか、それとも整備を託された庭師が素晴らしいセンスの持ち主だったのか、植物はまるで自然のままの様に乱れ咲き誇っています。こんなに美しい庭にアトリエアがありながら、しかしフォートリエは草木の絵を一枚も描いていません・・・
写真下、バラ園はやはり少し造園されていますが、完全に除草したり刈り込んでいないのが素敵です。

 
これがアトリエ

こちらが家。家もアトリエもまだ手入れされずに、ツタが絡み放題。窓から覗くと薄暗い中に、椅子や机が放りだされているようで、将来修理されるのでしょうか? しかし新しく綺麗にすると、どうしてもウソ物臭くなるし、修理費や管理費を捻出するため宣伝し、入場料を取るようになり・・・黒山の人だかりで騒々しいジヴェルニーの村やモネの庭を思うと、少々荒れたままにそっとしておいてもらいたいと思います。

この橋を渡ると、池の中に小さな本物の島があります。家の名はこの島から来たのかもしれません。

ジャン・フォートリエ(1898-1964)はとても特殊な画家です。画家としての成功は遅く、生活のために一時絵から離れていたこともあり、1945年Otage "捕虜" のシリーズで一躍名声を得ました。彼は第一次大戦で戦い、第二次はレジスタンスでゲシュタポに捕まり、森の中で行われたレジスタンスの処刑なども隠れて見てしまったらしい。一時期精神科の病院で過ごした事も。ゲシュタポに追われて隠れ住んだのがこの オオカミ谷 だったのです。以後亡くなるまでここで過ごしました。
有名になってもパリの華やかな社交界には背を向けた、ちょっと変わった人だったらしく、彼の絵も、その当時のどんなジャンルにも当てはまらず、後に Informel (フォーマルでない、つまり規格外ということですね)と呼ばれ、新しいジャンルの出発点に。

                       
                           
                       

去年フォートリエの大きな回顧展がパリの近代美術館であったので、珍しい彼の作品を見ることができました。暗いイメージのものばかりで、特に捕虜シリーズは、とても小さい作品なのですが見る者に不安感を与えます。長い間正視できない。紙の上に厚く盛り上がった絵の具、苦しみで歪み、捩じれたような顔・・・個人的にはもっと軽い、上記の静物画シリーズの方が好みでした。

 L'Ile Verte    34 rue Eugène-Sinet, Châtenay-Malabry 92019
行き方は8月2日のシャトーブリアンの庭のブログを参照下さい。シャトーブリアン館正門と樹木園の入り口は向かい合っていて、そこから歩いて10分くらい。ちょっとわかりずらいですが、道の角に最近は表示が出ています。

P.S. この家は緑の島と呼ばれる前はVilla Barbierヴィラ・バルビエと呼ばれ、グノーの殆どのオペラや、アンブローズ・トマのハムレットなどの台本で有名な作家、ジュール・バルビエの家で、第二次大戦まで彼の家族が住んでいました。きっと芸術家の間で有名だった家なのですね。

8/09/2019

トリスタン・ツァラの家/ モンマルトルの裏通り


Maison de TristanTzara/ Avenue Junot, Montmartare

モンマルトルのサクレクール寺院の後方を、丘の反対側、Rue Coulaincourtクーランク―ル通りに下ってゆく辺りは、どんなにサクレクールがツーリストの山でも、比較的静かに散策できる場所です。その中でAvenue Junotジュノ通りは一風変わって、アールデコ/モダニズム風な建物が並んでいます。有名なのは国の文化財に指定されているトリスタン・ツァラの家。装飾は罪悪であり文化水準の低さを象徴しているとし、モダニズムの先駆的な建築を残したオーストリアの建築家、アドルフ・ロースが1929年に建てました。ロースは、華麗なベルエポックのウィーンで装飾廃止を提唱したのですから、色々摩擦が起こったのでしょうか、晩年パリに移ってツァラの家を建てたというわけ。


家の持ち主トリスタン・ツァラ(1896-1963)は、ダダイズムの創始者と呼ばれるルーマニア出身の作家、詩人、エッセイスト。奥さんも画家と、モンマルトルの典型的アーティスト夫婦ですね。
確かに装飾の一切無い無骨ともいえる設計。丘の斜面なので、建物後ろの庭は多分2階か3階の高さ。こちら側の一階はガレージ、住居は2階以上で庭に面しています。そちら側が見られないのはとても残念。個人宅なので中も非公開。
因みにロースの装飾批判ですが、100%賛成できないけれど、否定できないものがありますね。文化水準の低さとはよく言ったもの・・しばし考えさせられました。

ツァラ家のお隣、壁に子供の顔のモザイクが目を引く家は、これもアーティスト、子供の絵を得意としたフランスの有名な挿絵画家フランシスク・プルボ(1876-1946)の住んでいた家です。
             
こうして見ると、丘の斜面に建っているのがよくわかりますね。
ジュノ通りの並木にテラスを広げたカフェレストラン Marcelマルセルは、ご近所のパリジャンたちが集まったという感じの気持ちのいいお店。このあたりからクーランク―ル通りのお店で一休みした方が、サクレクール周辺より断然静かで落ち着いています。

上はカフェレストランLa Maison Roseラ・メゾン・ローズ。ジュノ通りよりサクレクールに近いし、ローズ色で目立つのでいつもテラスは一杯ですが、それでも椅子が空いていたらちょっとコーヒーブレイクしたくなる可愛さ。色はともかくも、昔のままのモンマルトルの家ですから。

Maison Tristan Tzara 15 Avenue Junot 18e


トリスタン・ツァラ+ホワン・ミロ 

8/02/2019

シャトーブリアンの庭


Jardin de Chateaubriand

パリでは35℃以上の日が続き、最高で40℃を超えるような記録的な猛暑でした。先週でひとまず収まりましたが、余りの暑さに恐れをなしてパリジャンは集団 "疎開" してしまったのか、通行人も車も驚くほど少なくなり、お店やレストランも、繁華街以外は半分くらいシャッターを閉めたままで、パリはガランとして本格的なバカンスに突入です。
今日はパリの郊外、緑の多いラ・ヴァレ・オ・ルーLa Vallé aux Loups(オオカミの谷)のシャトーブリアンの庭を散歩してみましょう。

シャトーブリアンはフランス革命-ナポレオン-王政復古時代を通しての政治家、しかしロマン派の先駆者的な作家としての方が有名ですね。王党派の軍に入って共和派と戦ったり、イギリス、イタリアは勿論、中東-コンスタチノープル-エルサレム、そしてアメリカまで旅し、大臣や大使など重要な職に着いていながら、主義主張を正面から表明するタチだったようで、色々問題を起こしたりと、それこそロマン派的に生きた人だったようです。その彼が、ナポレオン(の下で働きながら)の独裁を非難した出版物を出したため、パリを追われて住んだのがこの館、彼の代表作がここで執筆されました。

庭は花が沢山咲いている春が一番きれいなので、花の写真は春に撮ったものです。

写真上はシャトーブリアン自ら植えたというレバノン杉。彼がオリンエントから持ち帰ったものらしい。そういえばパリのカルチエ財団美術館(モンパルナス近くの、元シャトーブリアン宅のあった場所)にも、これと同じく彼の植えたレバノン杉がまだ残っています。美術館を設計したジャン・ヌーベルは、この木を切ってしまわずに、ギリギリのスペースになんとか共存させました。
オオカミ谷の館は、今はオオカミなどいないけれど、鬱蒼とした森を背に時と場所を忘れてしまうような静けさ。一般公開されている外、ロマン派文学の会合や小展覧会が時々催されていますが、殆どの時は人がまばらで閑散としてロマネスクな雰囲気。今までこのブログで紹介したパリの画家や作家達の庭とは比較にならない、ヘクタール単位の広大な庭です。

とっておきのコーナーは、庭のオランジュリーを利用したカフェ。名前はシャトーブリアンの音をもじって "レ・テ・ブリアン" Les Thés Brillants(素晴らしいお茶)。キッシュなどのランチ、お菓子にマリアージュ・フレールのお茶を、緑や花に囲まれて頂くことができます。ただし良いお天気の休日は満席になります。このカフェを逃すと、近くにはレストランが無いため気を付けましょう。予約可。

Maison de Chateaubriand   87 Rue de Chateaubriand, Châtenay-Malabry
http://vallee-aux-loups.hauts-de-seine.fr/infos-pratiques/horaires-tarifs/67-horaires
Les Thés Brillants   http://vallee-aux-loups.hauts-de-seine.fr/services/restauration

パリの南RERのB線の終点Robinson下車徒歩20-25分。駅からのバスはとても少なく、あてになりません。
B線は途中から2つに分かれるので要注意。徒歩30分くらいの距離のソー公園と合わせてハイキングを楽しむならば、Parc de Sceaux 又は Sceauxで下車することも可能です。ソー公園と、それに続いた緑地帯など、ピクニックできる場所が沢山あります。
せっかく来て閉まっていると残念なので、事前にオープニングの時間を再確認して下さい。