8/30/2020

ルイ・ジョスの悪の華


Les Fleurs du Mal/ Les illustrations de Louis Joos

花屋の店先に、ちょっと変わった本が飾ってあったのに目を引かれました。花の写真が一杯のガーデニングやインテリアの本なら普通で、見過ごしていたはず。でもこの本は、少々毒気のあるような女性の、荒っぽいイラストが描かれていたのです。タイトルを見て、なるほど! ボードレールの≪悪の華≫。


少々毒気のある女性、と書きましたが、本当は一目見て、いわくありげな影のある女、不良女、ジャンキーか商売女か・・と思ったイラスト。花屋と悪の華の洒落や、平凡に花=美と、美しい女性のイメージを店頭に飾らなかったこの店のオーナーは、きっとステキな人に違いない・・


イラストがすっかり気に入ったので、ネットで調べてみました。作者の名は Louis Joos ルイ・ジョス。ブルースやジャズが相当好きらしく、ジャズマンのイラストやBDを沢山描いています。また本の挿絵多数。詩は上記ボードレールの外、ヴェルレーヌ、レイモン・キノーの挿絵も。
悪の華は本が見つからず、ネットで見たのは上の《時計》のイラストのみ。でもすばらしい!

ヴェルレーヌの詩集は見つけました。詩は苦手なのでほんの印象ですが、ジョスの絵は、悪の華の方によりマッチしているかもしれません。


ジャズの絵は彼の画風にまさにぴったりで、すごいの一言!


意外にも、子供のお話の挿絵も多く、以下は日本でも出版されている≪エヴァ・花の国≫

Louis Joos   Les Fleurs du Mal / Baudelaire, La Renaissance du Livre
                    Poèmes / Verlaine, La Renaissance du Livre

8/22/2020

トロピカル・アグロノミック・ガーデン "熱帯農業植物園"

Jardin d'agronomie tropicale de Paris

猛暑はちょっと和らいだとはいえ、パリにしては暑い日が続いています- - とはいえ毎年このような暑さが繰り返すので、それがごく普通のパリの気候になりつつあります。以前は夏でも、羽織るものは手放せなかったのですが、地球温暖化ですね。

日はヴァンセンヌの森の外れにある植物園のお話です。世にも不思議な美術遺産というタイトルで以前に書いた、パリの街角に立つ銅像達の鋳型の保管倉庫について取り上げたブログと、対になるような面白い場所です。


名前はJardin d'agronomie tropicale  "熱帯農業植物園" と訳したらいいのでしょうか、1800年代末期に、フランスの植民地の農作物、カフェ、バナナ、ゴム、バニラなどの収穫をより多くするために作られた、研究所と熱帯農園がそのルーツです。1907年にその敷地内で植民地博覧会が開かれ、その時に建てたモニュメントやパビリオンに、外の博覧会から持って来たものも加えて保存したのがこの植物園。全6.4ヘクタールの内4.5ヘクタールが一般公開され、残りは研究所。普通の公園のように誰でもタダで入れるのに、なぜかパリジャンにあまり知られていない、ちょっとミステリアスな場所。
創立当時何千とあった熱帯の農植物は、パリの気候が合わずに殆ど消え、残っているのは強い竹などタフな植物だけ。最近パリ市が園全体を買い上げて修理を始めるまでは、放置され、壊されたり焼かれたりで荒れ果てた建物とエキゾティックなモニュメント、西洋東洋を問わず勝手気ままに伸びたような植物が混じりあい、なんとも言えない不思議な魅力が・・・
このような記念碑には、2度の世界大戦で、フランスの為に戦って亡くなった、植民地戦士達へのオマージュが掲げられています。
壊れたままで修理を待つ各国のパビリオン
雑草が生え放題の温室

何に使っているのかよくわからない、研究所内のガランとした色々な建物。 
けれど修理されて展示用に使われている下写真の建物や、修理中の建物もあり・・
アーティスティック? なオブジェも・・・
それにエコ菜園まで・・・(野菜の直売あり)

なんでもありで少々目的が不明な公園、きちんと整備し管理されていないものの荒っぽい魅力と、時代遅れの不思議なノスタルジーが溢れる公園・・・修理が殆ど終わったチュニジア館を見ましたが、お行儀よくピカピカに新しく、ゼンゼンつまらない建物になっていました。私としてはこのまま、あまり人に知られず、古くさいままでそっとしておいてもらいたいような気がします。

Jardin agronomique tropical 45 Avenue de la Belle Gabrielle, 12e
住所はパリでも、一番最寄りの地下鉄はRER、B線の Nogent sur Marneノージャン・シュル・マルヌ下車、徒歩10分

8/13/2020

ノクターン/ マリー・ボヴォ

 


Nocturnes de Marie Bavo

"Nocturne" ノクターン、というタイトルですから、夜の写真展です。
Marie Bavo マリー・ボヴォは、夕暮れになると写真が撮りたくなるという特殊な写真家。一切フラッシュ無しで、街灯などその場に元々ある "自然光" だけを使った、うす暗いままのシーンを、しかも大判の写真(壁いっぱいのサイズ、1m50 x 2mくらい)を長時間かけて撮影しています。彼女はスペインのアリカンテ生まれ、マルセーユ在住。どちらも地中海そのものの街であり、アフリカから侵入したモーロに長い間支配されていたスペイン、移民の多いマルセーユと、アフリカと密接に繋がっています。


会場を入ってすぐに見えるのがこのシリーズ。マルセーユのジタンのキャンプに通って撮ったものだそうです。雑誌の広告にも使われたインパクトのある写真で、美しくもあり、ショッキングでもあり・・どの写真にも古いレールが見えます。貨物用の操車場の片隅のキャンプには、生活用品やカーペット代わりの古布・・自分が無害な者だと納得させこのキャンプに入り込む事自体が、辛抱強い交渉の結果だったようです。またジタンは自分達の存在をなるべく隠すために、灯は殆ど消してあり、暗闇で何を撮影しているかもよくわからない状態で何時間もカメラをかかえていたとか。しかしボヴォの写真は、冒険趣味、のぞき見趣味、珍し物趣味は全く感じられず、人を驚かせるセンセーショナリズムのアグレッシブさも全くありません。社会の底辺に生きる人々、ホームレスやジタンなどを撮りながら、その暖かい目は感じられても、ヒステリックな社会的なスローガンはありません。ねっとりと暑い南国の夜の暗さ、写されたオブジェの貧しさ惨めさを考えると、写真のアブストラクトな美はより物悲しい。

このシリーズは私が一番好きだったもので、アフリカです。粗末な家、ベランダ、外で料理をしているシーン。生活の匂いが一杯のはずなのに、人物の影も無く、音も聞こえず、一つ一つのオブジェが静止し、全体が美しいポエムになっています。コンロの微かな赤い火、奧の部屋のテレビ、ブルーのネオンなど、どの写真もどこかにアクセントになるカラーが・・ブログトップの写真は特に最高でした。


ガラッと変わってこのシリーズは、マルセーユのケバブレストランの内部。古い建物らしく、一面に地中海の風景が描かれた、キッチュで見事な総タイル張りです。日本の銭湯の富士山の壁画を思い出して思わず笑ってしまいましたが、あれと同じ感覚。古いパン屋やチーズ屋の店内に時々タイル画が残っていますが、しかしこれほど大きく精巧で見事なタイル画は見たことがありません。しかも中央に鏡がはめ込まれていて、そこに対面の絵と、お客やサービスするボーイの姿が写っているまま写真に撮られています。


この他、アパートの開けた窓から、外の景色や向かいの家の、夕暮れの中に光が次第に付き、消えてゆく様や、中庭で、建物に囲まれてくっきりと長方形に切られた空を見上げて、建物の明かりの点滅、空や洗濯物の色が様々に変わってゆく様など、面白い視点からの夜シリーズがありました。同じくフラッシュや外のテクニック無しの長時間撮影です。


因みにこのタイル絵の見事なケバブレストランは、その後壊されてしまったと、バヴォが嘆いてコメントしてありました。なんでも持ち主が変わり、モダンなケバブに模様替えされたそうです。古臭くて若いお客に敬遠されたのでしょうか、ここまで徹底したキッチュを壊してしまったのはとても残念。そういえば日本の銭湯の富士山の絵は、今どうなっているのでしょうか? いったい銭湯などまだあるのかしら??

Nocturnes, Marie Bavo     8月23日まで
Fondation Henri Cartier-Bressoin 79 Rue des Archives 3e

Fondation HCB関係ブログ

8/05/2020

レム・コールハースのラファイエット・アンティシパシオン


Rem Koolhaas/ Lafayette Anticipations

ラファイエット・アンティシパシオンのレイチェル・ローズ展に行ってきました。
ラファイエット・アンティシパシオンは、デパートのギャラリー・ラファイエット財団が、一昨年マレの最もホットな場所に建てた、現代アート、デザインの展示、及びアーティストのプロジェクトを支援する新しい現代美術のプラットフォームです。
1800年代後半の手工業のアトリエだった建物の外観を完全に保存し、しかし内側は、オランダの建築家レム・コールハースと彼の建築事務所OMAによって、大改装されました。

これが入り口ホール。元の建物が中庭を囲んだコの字型なので、この中庭部分をパティオ風に組み込んだオープンスペースです。左手に見えるのがレセプション。ここから2階に上がるとギャラリーへ。右手はカフェ。

これが2階のバルコニーからカフェを撮った写真。床や壁が電動で移動でき、展示品の大きさによって様々なスペースが演出可能で、これはレム・コールハース得意のシステムだそうです。


これは実は昨年12月の展覧会Katinka Bock展)の写真です。巨大な作品を展示できるように、パティオの部分を、1階の天井(=2階の床)だけ残して屋根までの吹き抜けにしてありました。ビジターは周りのバルコニーから、色々なアングルで作品を見ることができます。

上写真の奧に見えるのは、正面入り口とは反対側の通りに面した別の建物です。こちらからも出入り可。こちら側にアーティな雑貨のブティックがあります。

外から見るとそんなに大きな建物ではありませんが、このようにスケールの大きい展示ができるのは、可動式の床と壁のおかげでさすが・・このリノベーションで、レム・コールハースはフランスの最高の建築賞 "金の三角定規賞" を受賞。
以下は今回の展示で、最上階はこんな感じ。多分これが普通の状態です。


さてレイチェル・ローズの展覧会の方は、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリーでも展示されたという若いアーティストなのですが、少々がっかり・・・色々なテクニックと方法で多くの意味の深い事を表現していますが、ちょっと多すぎかも・・上の写真は、宇宙飛行士とのインタビューに、ヴィデオイメージを重ねた作品。

Lafayette Anticipations    9 rue du Plâtre 4e
Rachel Rose 9月13日まで