Nocturnes de Marie Bavo
"Nocturne" ノクターン、というタイトルですから、夜の写真展です。
Marie Bavo マリー・ボヴォは、夕暮れになると写真が撮りたくなるという特殊な写真家。一切フラッシュ無しで、街灯などその場に元々ある "自然光" だけを使った、うす暗いままのシーンを、しかも大判の写真(壁いっぱいのサイズ、1m50 x 2mくらい)を長時間かけて撮影しています。彼女はスペインのアリカンテ生まれ、マルセーユ在住。どちらも地中海そのものの街であり、アフリカから侵入したモーロに長い間支配されていたスペイン、移民の多いマルセーユと、アフリカと密接に繋がっています。
会場を入ってすぐに見えるのがこのシリーズ。マルセーユのジタンのキャンプに通って撮ったものだそうです。雑誌の広告にも使われたインパクトのある写真で、美しくもあり、ショッキングでもあり・・どの写真にも古いレールが見えます。貨物用の操車場の片隅のキャンプには、生活用品やカーペット代わりの古布・・自分が無害な者だと納得させこのキャンプに入り込む事自体が、辛抱強い交渉の結果だったようです。またジタンは自分達の存在をなるべく隠すために、灯は殆ど消してあり、暗闇で何を撮影しているかもよくわからない状態で何時間もカメラをかかえていたとか。しかしボヴォの写真は、冒険趣味、のぞき見趣味、珍し物趣味は全く感じられず、人を驚かせるセンセーショナリズムのアグレッシブさも全くありません。社会の底辺に生きる人々、ホームレスやジタンなどを撮りながら、その暖かい目は感じられても、ヒステリックな社会的なスローガンはありません。ねっとりと暑い南国の夜の暗さ、写されたオブジェの貧しさ惨めさを考えると、写真のアブストラクトな美はより物悲しい。
ガラッと変わってこのシリーズは、マルセーユのケバブレストランの内部。古い建物らしく、一面に地中海の風景が描かれた、キッチュで見事な総タイル張りです。日本の銭湯の富士山の壁画を思い出して思わず笑ってしまいましたが、あれと同じ感覚。古いパン屋やチーズ屋の店内に時々タイル画が残っていますが、しかしこれほど大きく精巧で見事なタイル画は見たことがありません。しかも中央に鏡がはめ込まれていて、そこに対面の絵と、お客やサービスするボーイの姿が写っているまま写真に撮られています。
この他、アパートの開けた窓から、外の景色や向かいの家の、夕暮れの中に光が次第に付き、消えてゆく様や、中庭で、建物に囲まれてくっきりと長方形に切られた空を見上げて、建物の明かりの点滅、空や洗濯物の色が様々に変わってゆく様など、面白い視点からの夜シリーズがありました。同じくフラッシュや外のテクニック無しの長時間撮影です。
因みにこのタイル絵の見事なケバブレストランは、その後壊されてしまったと、バヴォが嘆いてコメントしてありました。なんでも持ち主が変わり、モダンなケバブに模様替えされたそうです。古臭くて若いお客に敬遠されたのでしょうか、ここまで徹底したキッチュを壊してしまったのはとても残念。そういえば日本の銭湯の富士山の絵は、今どうなっているのでしょうか? いったい銭湯などまだあるのかしら??
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