6/24/2022

モービュイッソン僧院/ ポントワーズ散歩

Abbaye de Maubuisson "Chaque Fibre de Mon Être" de Laura Ellen Bacon/ Pontoise

パリ北駅から北西25km、国鉄で40分ほどのポントワーズの町に行きました。
ポントワーズは2000年の歴史のある古い町で、中世には重要都市として栄えましたが、それよりも現代人に馴染みがあるのは、印象派の画家カミーユ・ピサロが描いたポントワーズの風景かもしれません。町の中心から北に出れば、田園が広がり、ゴッホの最期の町オーヴェールも10km以内。
現在のポントワーズ
     
  ピサロの描いたポントワーズと周辺の丘
私達が訪れた日は土曜日だったので、まずは丘の上の旧市街の朝市に。そして旧市街をぶらぶらした後、第一目的のピサロ美術館に行きました。ピサロの絵は数点のみ、外は息子等ピサロゆかりの人々の絵や写真だけの静かな小美術館は、ポントワーズの丘を囲む城壁跡の、まるで船首のように突きだした突端に建っています。中世には防衛の要だったに違いないその美しい庭からの眺めも、この美術館のお目当てなのです。上のポントワーズの写真は、その庭から撮ったもの。
そして軽い昼食の後、城壁跡のすぐ下を流れるオワーズ川にかかる橋を渡り、第二の目的地、対岸サン・トーワン・オーモーヌの町にあるモービュイッソン僧院へ・・・

モービュイッソン僧院は、1236年にサン・ルイ王の母ブランシュ・ド・カスティーユによって建てられたシトー派の王立僧院です。貴族の子女を収容する尼僧院として建てられたそうですが、後は王家の住居や王室関係者の墓所として使われ、ブランシュ・ド・カスティーユを筆頭に、歴史上の≪有名人≫達が訪れ、生き、埋葬され、歴史物語にしたら面白そうな文化財。
大革命中に石切り場代わりに石が持ち去られ、破壊されずに残った部分が19世紀には繊維工場になったりの後、現在はオワーズ県所有の、コンテンポラリーアートセンターとして蘇りました。

現在展示中の作品は、植物の枝やつるを手作業で編み、結び、織り込んだ、イギリスのアーティストLaura Ellen Baconローラ・エレン・ベーコンの "Chaque Fibre de Mon Être" 直訳すると≪私の存在の全ての繊維≫。自分の全て、自分の存在をつぎ込んで織り込んだ、といった意味でしょうか 。全部その場で作られたもので、編み込まれヴォリュームを持ち、古い僧院の壁や柱にうねる様子は、一見は枯れた植物なのに、どこかに不思議な躍動感があります。


僧院の過去の展覧会の写真をサイトで見てみましたが、どれも僧院の柱など内部の特色をそのまま利用して作られたビッグサイズのユニークな作品ばかりで、僧院の古さと作品のユニークさのコントラストが面白いと思いました。
展覧会は無料、一部は森のままの10ヘクタールの庭も毎日一般にただで開放され、コンサート、子供や家族向けのアトリエの企画など、なかなか意欲的なアートセンターです。

Le Musée Camille Pissarro    17 Rue du Château, 95300 Pontoise
L'Abbaye de Maubuisson    Avenue Richard de Tour, 95310 Saint-Ouen L'Aumône
"Chaque Fibre de Mon Être" de Laura Ellen Bacon  8月28日まで

6/09/2022

オーギュスト・ペレのル・ランシー・ノートルダム教会

 

L'Eglise Notre-Dame du Raincy d'August Perret

フランスは13-19世紀の古い建造物が溢れているので、ツーリストはそれらの歴史遺産の見学に忙しく、近代の物まで見る時間がなかなかありませんが、実は素晴らしい近代建築が色々な場所に隠れているのです。パリの郊外北東約20キロのル・ランシーの聖母教会(1922-23年)もその一つ。オーギュスト・ペレの最高傑作と呼ばれる鉄筋コンクリートの教会です。最近はモダニズムブームでもあるのに、多分パリジャンでも知らない人が多い歴史的建造物。

第1次世界大戦の直後、労働者の町ル・ランシーに新しく就任した神父さんが、マルヌ戦に倒れた兵士を祭る教会を建てようと奔走します。戦争直後の国庫は空っぽで援助は望めず、あちこちの寄進だけが頼みだったそうです。ミニマムの資金をなんとか調達した神父さんは、アルジェリア、オランのカトリック教会の建設に参加して、画期的な技術を披露したばかりのオーギュストとギュスターヴ・ペレ兄弟に建設を依頼しました。恐らく破格に安い費用で建ててもらえるという評判に惹かれて・・事実旧来の教会の1/6(この数字は未確認)とかの金額で、しかも最短期間で完成したのだそうです。


資金不足で買った土地は狭く、丘の傾斜がある事も難問でした。通常あるはずの教会前の広場もロータリーも、ちょっとした庭すらなく普通の建物に囲まれているので、高い鐘楼が無かったら、うっかり見過ごしそう。

さて資金不足で建てられたこの教会の出来上がりはというと・・モオダニズムの教会の傑作と言われるだけある、素晴らしく美しいものになりました。鉄筋コンクリートの技術で、重い屋根やそれを支える太い柱、壁が必要なくなり、教会内は光の洪水です。


かの有名なシテ島のサント・シャペルのステンドグラスと並んで称されるステンドグラスは、、経費を抑えるために円、三角、クロス等の単純なモチーフの、コンクリート型の多数の正方形だけで作られています。窓によって赤、青、緑、オレンジの確か4色のトーンでした。
                   
資金が無かったので下絵だけモーリス・ドニに頼んで作られたマリアの生涯のモチーフ。

以前に私はペレ兄弟がこのル・ランシーの後に創った小さなチャペルのブログを書きました。ずっと小さく超質素で、もっと資金難だったらしいひっそりしたチャペルなのですが、それにあまりに感激していたので、こちらの大きなル・ランシーの方には、実はちょっぴりがっかりしてしまいました。コンクリートの正方形の中にカラフルなモチーフが沢山入り、上記モーリス・ドニ下絵のステンドグラスなども所々はめ込まれ、時間もお金もかけて複雑になった分、クラッシクなステンドグラス風になってしまたような感じ。私はArcueilの小さなチャペルのシンプルさの方が好きでした。もちろん規模が全く違うので、入った時のインパクトも格段にル・ランシーの方が大きいのですが・・

同じ幾何学模様が天井にも
パイプオルガン
パリの建築美術館にあったル・ランシー教会の内部を紹介する模型

Le Raincyはパリ北東にある郊外の町です。パリのMagentaマジャンタ駅(北駅と通路で繋がっています)から郊外行きRERのE線に乗り25-30分。1時間に2本。Le Raincy - Villemomble下車。駅前左手のAv. de la Résistanceレジスタンス大道りの緩い上り坂を、歩いて10-15分の左手にあります。
北駅、マジャンタ駅、そしてE線は、派手な服装や高級品を持たずに、身軽に行きましょう。

L'église Notre-Dame du Raincy     83 Av. de la Résistance, 93340 Le Raincy

P.S. つい最近鐘楼の修復工事が始まったので、当分は櫓に囲まれてしまいました。

オーギュスト・ペレのチャペル 

オーギュスト・ペレ・のパレ・ディエナ
オーギュスト・ペレのヴィラ・スーラ
オーギュスト・ペレとフランクリン通り25番地のアパート